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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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第26話「尾張の怪物」

尾張は、騒がしかった。


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商人。


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職人。


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浪人。


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農民。


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全てが、動いている。


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まるで。


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国そのものが、呼吸しているようだった。


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「また増やすのですか」


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家臣が、疲れた顔で問う。


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「当然だ」


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織田信長は、即答した。


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目の前には、鉄。


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火縄銃。


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分解された部品。


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南蛮由来の機構。


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「遅い」


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信長が、吐き捨てる。


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「全部遅い」


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職人たちが、顔を青くする。


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だが。


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信長は、怒っているわけではない。


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純粋に。


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“待てない”。


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「戦国は変わる」


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鉄砲を持ち上げる。


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「これでな」


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普通の武将は。


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鉄砲を、武器として扱う。


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だが。


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信長は違う。


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“戦国そのものを変える道具”。


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そう見ている。


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「上杉は」


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ぽつりと呟く。


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「正しい」


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家臣たちが、凍る。


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敵を。


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認めた。


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「火輪銃」


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「情報」


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「恐怖」


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「合理」


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笑う。


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「素晴らしい」


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だが。


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次の瞬間。


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その目が、狂気じみた光を帯びる。


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「だが、古い」


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空気が、止まる。


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「……古い?」


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信長は、火縄銃を回す。


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「少数精鋭」


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「指揮破壊」


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「恐怖支配」


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「効率的だ」


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頷く。


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「だから強い」


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そして。


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笑った。


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「だが、面倒だ」


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家臣たちが、息を呑む。


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「戦は、もっと簡単でいい」


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信長は、地図を広げる。


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尾張。


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美濃。


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京。


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線を引く。


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「全部、燃やせばいい」


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沈黙。


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理解できない。


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上杉兼継は、支配する。


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武田信玄は、突破する。


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だが。


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織田信長は。


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“焼き払う”。


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「……狂っている」


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誰かが、呟く。


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信長は、笑った。


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「当然だろ」


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そして。


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窓の外を見る。


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尾張。


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人。


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煙。


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金。


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流通。


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全てが、動いている。


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「時代は、人が作る」


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静かな声。


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「なら」


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その目が、細くなる。


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「壊すのも、人だ」


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越後。


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兼継は、報告を聞いていた。


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「尾張、異常発展」


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「鉄流通増加」


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「商人吸収」


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「兵数急増」


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家臣の顔が、険しい。


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「普通ではありません」


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兼継は、静かに地図を見る。


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尾張。


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まだ小さい。


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だが。


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広がっている。


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異常な速度で。


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「……理解した」


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ぽつりと呟く。


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「武田信玄は、“戦国最強の武将”だ」


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家臣たちが、黙る。


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「だが」


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視線が、尾張へ向く。


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「織田信長は、“戦国そのもの”を変える」


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空気が、凍る。


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武田は、戦。


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だが。


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信長は、時代。


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「危険だな」


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兼継が、静かに言う。


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その時だった。


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新たな報が届く。


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「織田」


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「美濃侵攻準備」


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沈黙。


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兼継が、ゆっくり立ち上がる。


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「始まるか」


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短い言葉。


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だが。


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その目だけが、僅かに熱を帯びていた。


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武田信玄。


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そして。


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織田信長。


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二人の怪物。


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だが。


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兼継は、理解している。


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本当に危険なのは。


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“笑いながら時代を壊せる男”。


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そのことを。


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(次話へ)


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