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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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267/288

第267話「氏康の検分」

相模国、小田原城。

北条氏康、四十五歳は、自ら馬を駆って国境近くの支城を巡検していた。


北条の構造は、四代にわたり積み上げられた平分と持久の思想に基づいている。

他国がどれほど急激に拡張しようと、この堅牢な防壁は微動だにしない。

しかし、氏康の脳裏には、越後が作り出しつつある「情報の網」が影を落としていた。


「越後の間者ども、銭ではなく木札を配り歩いている模様にございます」

近習の報告に、氏康は手綱を握る手を少し強めた。


「土地を縛る我が方の検地に対し、あやつらは民の『動き』そのものを支配しようとしている」

動かないものは頑強だが、動くものは変化に対応する。

氏康はその本質的な脅威を、誰よりも正確に理解していた。


「各城の兵糧をただ蓄えるな。どこから運び、どこへ抜けるか、その流動を調べ直せ」

氏康は家臣たちに鋭く命じた。


説明過多は不要である。

ただ、現場の機能が落ちなければ、外からの圧力に崩されることはない。

氏康は愛馬の首を撫でながら、静かに遠い北の空を睨みつけた。

崩れない構造体は、いま新しい変数値に対してその強度を再計算していた。

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