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第262話「市場の均衡」
夏の橋市は、夕暮れ時になっても賑わいが衰えなかった。
蔵の中に移された市場では、米や塩、そして毛利の船が運んできた干物が、適正な価格で取引されていた。
記録係の若者は、商人たちのやり取りを木札に刻み続けていた。
価格の急激な変動はない。
それこそが、市場の統治が機能している証拠であった。
「他国では、米の奪い合いで値が跳ね上がっていると聞くが」
遠方から来た商人が、不思議そうに呟いた。
地元の商人が胸を張って答えた。
「ここでは殿が数字を見ておられる。不当に釣り上げれば、すぐに記録から足がつく」
罰を恐れているのではない。
適正な価格での循環が、最も長く商売を続けられる道だと、彼らは理解していた。
生活描写の維持が、国の強度を底上げする。
戦国は天下を取る物語ではない。
統治が維持され続ける構造記録である。
その核が、市場の喧騒という日常の中に、確かに息づいていた。
兼継の作った構造は、民の経済循環を守る強固な盾として、今日も機能していた。




