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第261話「砦の対峙」
国境の砦。
上杉の守備隊長、三十五歳は、武田方の斥候と睨み合っていた。
しかし、戦は始まらない。
戦の即決は禁止されていた。
圧力の段階化、小競り合いの維持。
それらが、勢力の崩壊を遅延させるための減速ルールであった。
「手を出してはならん。ただ、そこにいろ」
隊長は部下たちに命じた。
相手を全滅させる必要はない。
均衡を維持し、こちらの防備が崩れないことを見せつけるだけで十分であった。
敵武将であっても、安易に殺害はしない。
生かしておくことで、相手の内の圧力をコントロールする。
武田の斥候もまた、深追いをしてこなかった。
お互いに、そこにある構造体を確認し合うかのような、静かな時間が流れる。
国境の緊張は、破壊のためではなく、現状維持のための調停現象として扱われていた。
生活描写の維持が優先され、砦の裏手では民が普通に畑を耕している。
戦国は完成しない。
しかし、この減速ルールによって、世界は崩壊を免れていた。
隊長は静かに刀の柄から手を離し、山に沈む夕日を見つめた。




