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第254話「信長の渇き」
尾張国、清洲城。
織田信長、二十六歳は、照りつける太陽の下で馬を走らせていた。
楽市によって膨れ上がった富は、津島の港を通じて大量の硝石と鉛に変えられていた。
市場から吸い上げた銭を、一点の破壊力へと集中させる。
織田の構造は、その速度を緩めることを許さない永久機関であった。
「駿河の今川、いまだ動きに覇気がないな」
信長は馬を止め、丹羽長秀、二十五歳を振り返った。
「はっ。国境での小競り合いは続いておりますが、大軍を動かす気配はございませぬ」
信長は不敵に笑った。
「完成を急ぐから身動きが取れなくなるのだ。統治に完成などない」
信長の視線は、南の駿河だけでなく、常に北の越後をも捉えていた。
戦をせずに国力を蓄えているという十四歳の噂は、信長にとって最大の関心事であった。
「俺の破壊の速度が勝つか、あいつの維持の持続力が勝つか」
信長は鞭を鳴らした。
破壊と再編の中心にある織田の圧力は、周囲の勢力を激しく揺さぶり始めていた。
勢力の均衡が崩れる前夜、信長は自らが最大の嵐となることを確信し、突き進んでいた。




