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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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253/288

第253話「初夏の検地」

七月に入り、越後の領内には強い日差しが照りつけていた。

上杉兼継、十四歳は、城の広間に広げられた新しい検地帳を睨んでいた。


この検地帳は、従来の土地の広さだけを記録したものではない。

各水田の水量、日当たり、そして働く民の識字率までが細かく網羅されていた。

記録係の若者たちが、初夏の汗を拭いながら集めてきた生きた数字であった。


「文字を知る者が増えた村ほど、年貢の予測との齟齬が少ない」

報告を行う記録係の言葉に、兼継は静かに頷いた。


民が自ら数字を理解し、納得して記録に応じる。

その信頼の連鎖が、不必要な摩擦を削ぎ落とし、統治の精度を極限まで高めていた。


「これでは、小田原の北条氏康様も驚かれましょう」

家臣の一人が口にした。


兼継は筆を動かしたまま、淡々と返した。

「北条は強固だが、不変を求めている。我が方は変化に対応するための固定を目指す」


戦国は未完成の混乱ではない。

すでに次の統治構造への移行期であるという思想が、この帳面には満ちていた。

領地を拡大するのではなく、内側の強度を限界まで圧縮する。

その冷徹な国家運用が、夏の熱気の中で静かに機能していた。

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