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第245話「毛利の海路」
安芸国、吉田郡山城。
毛利元就、六十三歳は、瀬戸内の海図を広げていた。
毛利は経済、海上、流通支配の軸である。
戦わずに構造を維持するその手法は、越後の兼継と響き合うものがあった。
「越後からの荷、今月も無事に届いております」
小早川隆景、二十六歳が報告した。
越後から届く木札の記録は、毛利の商人たちにも正確な商いを強制していた。
嘘がつけない。
それは、相互の信頼の連鎖を強固にする。
「上杉の若者は、商いという網の目で国を縛っているな」
元就は細い指で海図をなぞった。
「戦を仕掛ければ、その網が刃となって相手を切り刻む。合理的よ」
隆景は、越後との距離をさらに縮めるべきかと問うた。
元就は首を振った。
「深く入り込むな。あの国は巨大な蟻地獄のようなものだ。一度巻き込まれれば、我らの船もあちらの維持装置の一部にされてしまう」
敵を殺さず、勢力を崩壊させず、ただ構造の中に組み込んでいく。
越後のその不気味な統治持続力を、毛利の老将は正確に観測していた。
海原を渡る風が、毛利の城壁を静かに吹き抜けていった。




