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第242話「信長の東望」
尾張国、清洲城。
織田信長、二十六歳は、新築された厩舎の前に立っていた。
楽市によって膨れ上がった銭は、鉄砲だけでなく、良質な軍馬の買い付けにも回されていた。
市場の活性化が、そのまま軍事圧力の増大へ直結する構造。
信長はその永久機関の歯車を、さらに高速で回そうとしていた。
「駿河の今川、いまだ動かずか」
信長が問うと、丹羽長秀、二十五歳が深く頭を下げた。
「はっ。境界での小競り合いは続いておりますが、大軍を動かす気配はございませぬ」
信長は鼻で笑った。
「完成を恐れて縮こまっているな。統治など完成せぬ。ただ動かすものだ」
信長の視線は、尾張から東へ、そしてさらに北へと向いていた。
越後の十四歳が、静かに内を固めているという報告は、信長の耳にも届いていた。
「戦をせずに強くなる国か」
信長は鞭を鳴らした。
「面白い。だが、俺の破壊の速度にその維持が追いつくかどうか、試してやる」
織田の圧力は、周囲の勢力を激しく揺さぶり始めていた。
勢力の均衡が崩れる前夜、信長は自らが最大の変数となることを確信していた。
馬のいななきが、春の尾張の空に高く響き渡った。




