第236話「橋の上の検問」
春の風が吹く越後の橋市。弥助老人は、新しく設置された検問の様子を眺めていた。
検問といっても、兵が槍を構えているわけではない。記録係の若者二人が、台を置いて渡る者の荷を改めているだけだった。旅の薬売りが、怪訝な顔で荷物を見せていた。
「おい、俺は怪しい者じゃないぞ」
「分かっております。ただ、どこから来て何をどれだけ持ってきたかを知りたいだけです」
若者は手際よく木札に筆を走らせ、薬売りに小さな木片を渡した。
「これを西の門で見せれば、もう改めは入りません」
薬売りは狐につままれたような顔で橋を渡っていった。
弥助は小屋から出て、若者に声をかけた。
「そんなことをして何になる」
若者は汗を拭いながら笑った。
「一日にどれだけの薬が入り、どこへ流れていくかが分かれば、次に流行り病が起きたときに殿が薬をどこへ集めればいいか分かります」
弥助は黙って頷いた。かつての戦国では、関所は民から銭を毟り取る場所だった。しかし、兼継の作った関所は、情報を吸い上げる場所に変わっていた。銭は取られない。だから民も拒まない。拒まないから、正確な情報が瞬時に城へ集まる。
この信頼の連鎖こそが、剣では壊せない越後の新しい防壁であった。弥助は再び小屋に戻り、静かに流れる川を見つめた。




