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第23話「魔王の熱」

吹雪が、弱まっていた。


---


雪の中。


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二人だけが、立っている。


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上杉兼継。


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武田信玄。


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周囲の兵は、動けない。


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入れない。


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それほどまでに。


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戦場の中心が、異常だった。


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「……ははっ」


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信玄が、笑う。


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血を流しながら。


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肩を砕かれ。


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脇腹を裂かれ。


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それでも。


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笑っている。


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「楽しいな」


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その言葉。


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兼継は、黙って聞いていた。


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理解できない。


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戦は。


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勝つためのもの。


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合理。


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処理。


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支配。


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それ以外の感情は、不要。


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それが。


---


上杉兼継。


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だが。


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目の前の男は、違う。


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壊れながら。


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死にかけながら。


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それでも。


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笑っている。


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「……何故、笑う」


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初めてだった。


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兼継が。


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敵に問いを投げた。


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信玄は、一瞬だけ目を丸くする。


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そして。


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さらに笑った。


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「面白いからだ」


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即答。


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「お前みたいな化物と、戦える」


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槍を、握り直す。


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「こんな機会、二度とない」


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兼継は、理解できなかった。


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勝敗より。


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命より。


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戦そのものを楽しむ。


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それは。


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兼継に存在しない思考。


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「……理解不能だ」


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ぽつりと呟く。


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だが。


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胸の奥。


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何かが、動いた。


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熱。


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小さい。


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だが。


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確かに。


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「……そうか」


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兼継の目が、細くなる。


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「お前は」


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短刀を構える。


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「戦そのものか」


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その瞬間。


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信玄の笑みが、深くなる。


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「ようやく分かったか」


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踏み込む。


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速い。


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雪が、爆ぜる。


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槍が来る。


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兼継は、避ける。


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だが。


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遅い。


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信玄が、途中で軌道を変える。


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「っ!」


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初めて。


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兼継の肩が、裂けた。


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血。


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上杉兵が、凍りつく。


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傷をつけた。


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魔王に。


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信玄は、笑う。


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「届くじゃねえか」


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兼継は、自分の肩を見る。


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血。


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熱。


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痛み。


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久しく、感じていなかった。


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「……なるほど」


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ぽつりと呟く。


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「これが、戦か」


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周囲が、凍る。


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兼継の空気が、変わった。


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静かだった。


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冷たかった。


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だが。


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今は違う。


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熱。


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闘争。


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生。


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武田信玄が。


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初めて。


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魔王の内側を、揺らしている。


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「ははっ!!」


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信玄が、さらに前へ出る。


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槍。


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連撃。


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暴力のような技量。


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兼継も、踏み込む。


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短刀。


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最短。


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最速。


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互いに。


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互いを殺せる距離。


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轟音。


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雪。


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血。


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吹雪の中。


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二人だけが、異常だった。


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「信玄様!!」


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「兼継様!!」


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周囲が叫ぶ。


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だが。


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届かない。


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二人とも。


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もう周囲を見ていない。


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「……面白い」


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初めて。


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兼継が、自分から言った。


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信玄が、一瞬止まる。


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そして。


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笑った。


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「ようやくだ」


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次の瞬間。


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さらに激突。


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その衝撃で。


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雪原そのものが、割れた。


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兵たちが、後退する。


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近づけない。


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これはもう。


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戦ではない。


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怪物同士の殺し合い。


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その時。


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遠くで。


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角笛が鳴った。


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武田側。


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撤退の合図。


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一瞬。


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信玄の動きが止まる。


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兼継も、止まった。


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沈黙。


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吹雪。


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血。


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そして。


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信玄が、笑う。


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「……今日はここまでだ」


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兼継は、何も言わない。


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だが。


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止めなかった。


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信玄が、背を向ける。


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武田軍が、退いていく。


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崩れながら。


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それでも。


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生きて。


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兼継は、その背中を見ていた。


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「……逃がしたのですか」


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家臣が、震えながら問う。


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兼継は、少しだけ沈黙する。


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そして。


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初めて。


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ほんの少しだけ。


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笑った。


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「次がある」


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その一言で。


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全員が、凍る。


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魔王が。


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戦を、楽しみ始めていた。


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(次話へ)


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