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第22話「届く牙」

武田騎馬隊が、雪原を裂く。


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速い。


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吹雪すら、置き去りにする勢い。


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「押し込めぇぇ!!」


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咆哮。


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それは、恐怖を消す声だった。


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武田軍は、壊れている。


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補給も。


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兵数も。


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本来なら、もう戦えない。


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だが。


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前にいる。


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武田信玄が。


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それだけで。


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進める。


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火輪銃隊が、後退する。


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整然。


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乱れない。


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だが。


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「届く!!」


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武田騎馬隊が、さらに加速する。


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距離。


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あと僅か。


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「……っ」


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上杉側の兵が、初めて動揺する。


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近い。


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近すぎる。


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火輪銃は強い。


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だが。


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近づかれれば。


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絶対ではない。


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「……なるほど」


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兼継が、静かに呟く。


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「そこまで読んだか」


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武田信玄。


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火輪銃を“兵器”として理解し始めている。


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遠距離。


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指揮破壊。


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情報戦。


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ならば。


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距離を消す。


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正しい。


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だからこそ。


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厄介。


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「だが」


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兼継の目が、細くなる。


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「遅い」


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その瞬間。


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雪原が、崩れた。


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「なっ!?」


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武田騎馬隊の前列が、消える。


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落とし穴。


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雪で隠された。


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深い。


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鋭い杭。


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馬が悲鳴を上げる。


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兵が落ちる。


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隊列が、乱れる。


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「止まるな!!」


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信玄が叫ぶ。


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だが。


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その“一瞬”。


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それだけで、十分だった。


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「撃て」


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火輪銃。


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一斉射。


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轟音。


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崩れた騎馬隊へ、弾丸が突き刺さる。


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「ぐぁぁっ!!」


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次々に落ちる。


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「……くっ」


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信玄の目が、細くなる。


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“ここまで”読んでいた。


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距離を潰す。


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その一点すら。


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利用された。


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「……化物め」


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だが。


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笑う。


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恐怖ではない。


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高揚。


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「だから面白い!!」


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再び前へ出る。


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血。


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雪。


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死体。


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その中心を。


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武田信玄だけが、突き進む。


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兼継は、それを見る。


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「……来るか」


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静かな声。


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そして。


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初めて。


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短刀を構えた。


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空気が、変わる。


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周囲の兵が、震える。


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“来る”。


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本能が、理解していた。


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次の瞬間。


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信玄が、踏み込む。


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兼継も、踏み込む。


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激突。


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轟音。


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雪が吹き飛ぶ。


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槍。


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短刀。


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速度。


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技量。


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殺意。


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全部が、異常。


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「……っ!」


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信玄の槍が、兼継の髪を裂く。


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兼継の短刀が、信玄の脇腹を切る。


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互角。


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あり得ない。


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周囲の兵が、息を呑む。


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誰も、入れない。


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入った瞬間、死ぬ。


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「ははっ……!」


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信玄が、笑う。


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血を吐きながら。


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「最高だ!!」


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兼継は、何も言わない。


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だが。


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目だけが、変わっていた。


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静かだった瞳。


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そこに。


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初めて。


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“闘争”。


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熱。


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感情。


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武田信玄だけが。


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初めて。


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魔王から、“人”を引き出している。


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「……強い」


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兼継が、呟く。


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本音。


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それを聞いた瞬間。


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信玄が、笑った。


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「お前もだ」


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その瞬間。


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二人の間で。


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戦が変わった。


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支配でも。


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合理でもない。


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純粋な、“勝負”。


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雪の戦場。


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魔王と虎。


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その激突は。


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ついに、最深部へ到達していた。


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(次話へ)


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