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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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222/288

第222話「夜の問い」

夜、農家の一室。


父親が囲炉裏の前で黙っていた。五十一歳。字は読めない。生まれてから一度も必要を感じなかった。


娘が隣に座って、紙に文字を書いていた。玄斎の小屋で覚えた字を、毎晩練習している。


父親はそれを横目で見ていた。


「何て書いた」


「川」


「これは」


「山」


父親は黙った。娘が聞いた。「父ちゃんも覚える?」


父親はしばらく何も言わなかった。囲炉裏の火が揺れた。


「俺はいい」


娘は「そう」と言って、また書き続けた。


父親は火を見た。娘が知っていて自分が知らないことが、この世に存在するようになった。悔しい、とも違う。寂しい、とも違う。


言葉の形にならない感情が、囲炉裏の煙のように漂って、静かに消えた。


父親は何も言わなかった。娘は書き続けた。外では風が鳴っていた。

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