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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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216/288

第216話「均衡の前夜、再び」

この年の終わりに、越後で小さな記録が作られた。

城下の識字率を調べたものだった。

誰が命じたわけでもない。玄斎が自分で動いて、弟子にあたる若者数人と調べた。

結果は、城下の成人のうち、三割近くが簡単な文字を読めるようになっていた。

一年前はほぼゼロだった。

玄斎はその記録を兼継に渡した。

兼継は数字を見た。

「三割」

「はい」

「五割になったら、次の段階に進めます」

玄斎は少し驚いた。

「次の段階、とは」

「記録を残す仕組みを作ります。市の動きを。人の動きを。物の動きを。それが積み上がれば、次の政の根拠になる」

玄斎は黙って聞いていた。

十三歳が言っている言葉の意味を、理解するのに少し時間がかかった。

これは統治の話だ。

領地を広げる話ではない。

国を、記録で動かす話だ。

夜が深まっていた。

越後は静かだった。

戦国の均衡は、まだ保たれていた。

(次話へ)

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