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第216話「均衡の前夜、再び」
この年の終わりに、越後で小さな記録が作られた。
城下の識字率を調べたものだった。
誰が命じたわけでもない。玄斎が自分で動いて、弟子にあたる若者数人と調べた。
結果は、城下の成人のうち、三割近くが簡単な文字を読めるようになっていた。
一年前はほぼゼロだった。
玄斎はその記録を兼継に渡した。
兼継は数字を見た。
「三割」
「はい」
「五割になったら、次の段階に進めます」
玄斎は少し驚いた。
「次の段階、とは」
「記録を残す仕組みを作ります。市の動きを。人の動きを。物の動きを。それが積み上がれば、次の政の根拠になる」
玄斎は黙って聞いていた。
十三歳が言っている言葉の意味を、理解するのに少し時間がかかった。
これは統治の話だ。
領地を広げる話ではない。
国を、記録で動かす話だ。
夜が深まっていた。
越後は静かだった。
戦国の均衡は、まだ保たれていた。
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