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第211話「玄斎、過去を語る」
ある夜、玄斎は珍しく自分から話し始めた。
京にいた頃のことだった。
「将軍家に仕えていた時、私は記録係でした。何でも書き留めた。誰が何を言ったか。何が決まったか。何が決まらなかったか」
兼継は黙って聞いていた。
「ある時、十年前の記録を読む機会があった。そこに、今と同じ議論があった。同じ問題を、十年前の人間も話し合っていた。そして、同じ結論が出ていた」
「それで」
「誰も、その記録を読んでいなかった。だから同じ失敗をした」
玄斎は茶を飲んだ。
「記録とは、積み上げることではありません。読まれることです。読まれなければ、ただの紙です」
兼継は少し考えた。
「読ませる仕組みが必要だ」
玄斎は頷いた。
「そうです。そしてそれは、文字を広めることより、ずっと難しい」
灯が揺れた。
兼継はその夜、長い時間をかけて、何かを紙に書いていた。
玄斎は見なかった。
見る必要がないと思ったから。
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