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第210話「橋番・弥助の独り言」
弥助、六十一歳。
今日も橋の端に座っている。
最近、橋を渡る人間の顔が変わってきた気がする。以前は、渡るたびに緊張している者が多かった。橋はまだ新しく、本当に渡れるのかと疑っている目だった。
今は違う。
当たり前の顔で渡っていく。
当たり前になった、ということだ。
弥助は橋の木目を見る。傷みはない。よく保っている。月に一度、大工が点検に来る。それも殿の指示らしい。作って終わりではなく、維持する仕組みがある。
若い兵が隣に来た。
「弥助さん、橋ができる前って、どうだったんですか」
弥助はしばらく考えた。
「渡れなかった」
「それだけですか」
「それだけだよ」
若い兵は少し首をひねった。
弥助は川を見た。
渡れなかった、というのは場所の話ではない。時間の話だ。あの頃は、先のことを考えられなかった。今日を生き延びることで精一杯だった。
橋ができて、先を考えられるようになった。
そういうことだと思っている。
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