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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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210/288

第210話「橋番・弥助の独り言」

弥助、六十一歳。

今日も橋の端に座っている。

最近、橋を渡る人間の顔が変わってきた気がする。以前は、渡るたびに緊張している者が多かった。橋はまだ新しく、本当に渡れるのかと疑っている目だった。

今は違う。

当たり前の顔で渡っていく。

当たり前になった、ということだ。

弥助は橋の木目を見る。傷みはない。よく保っている。月に一度、大工が点検に来る。それも殿の指示らしい。作って終わりではなく、維持する仕組みがある。

若い兵が隣に来た。

「弥助さん、橋ができる前って、どうだったんですか」

弥助はしばらく考えた。

「渡れなかった」

「それだけですか」

「それだけだよ」

若い兵は少し首をひねった。

弥助は川を見た。

渡れなかった、というのは場所の話ではない。時間の話だ。あの頃は、先のことを考えられなかった。今日を生き延びることで精一杯だった。

橋ができて、先を考えられるようになった。

そういうことだと思っている。

(次話へ)

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