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第207話「市場の喧嘩」
橋市で喧嘩があった。
といっても、血は出なかった。
荷の積み方を巡って、馬子と行商人が言い合いになった。それだけのことだ。ほかの城下なら日常茶飯事で、たいていは怒鳴り合いで終わるか、殴り合いになるかだ。
だが橋市では、周りの商人が間に入った。
四十代の桶屋だった。どちらの味方もせず、ただ「市の決まりではこうなっている」と言った。決まりは口頭で伝わっているものだったが、誰もが知っていた。
馬子は不満そうだったが、引いた。行商人も引いた。
それだけのことだった。
夕方、その様子を見ていた旅人が、宿の主人に聞いた。「あの市の決まりとは何ですか」
主人は少し考えてから答えた。
「殿が決めたものです。でも、今は殿が決めたというより、みんなが決めたものみたいになってますね」
旅人は不思議そうな顔をした。
主人は笑った。
「そういうものだと思います、良い決まりってのは」
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