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第205話「玄斎、兼継に会う」
呼ばれたのは、朝だった。
坂本玄斎が城に入ったのは生まれて初めてではないが、戦国の城はいつ来ても落ち着かない。京の公家屋敷とは空気が違う。木の匂いが違う。人の目が違う。
通された部屋は小さかった。
そこに、子どもが座っていた。
十三歳。上杉兼継。
玄斎は一瞬、何かを言いそうになって、やめた。子どもだと思った自分を、すぐに恥じた。目が違う。何かを計算している目だった。感情がないわけではない。ただ、感情より先に思考が動いている。
「先日の話を聞いた」
兼継が口を開いた。
「国が死なない記憶を持つ、というのは、文字だけの話ですか」
玄斎は少し驚いた。使いの家臣が報告した内容を、そのまま問いに変えていた。
「いいえ」と玄斎は答えた。「文字は入口です」
「その先は」
「制度です。記録が積み重なり、それを読む者が育ち、読んだ者が次の制度を作る。それが国の記憶になる」
兼継はしばらく黙っていた。
「もう少し、越後にいてもらえますか」
命令ではなかった。
問いだった。
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