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第203話「武田の斥候、越後を見る」
甲斐から来た男は、商人の格好をしていた。
三十二歳。武田の諜報を担う者の一人だった。
越後の城下を歩いて、五日が経つ。
橋は本当に頑丈だった。以前、武田の者が渡ったことのある橋とは別物だった。木の組み方が違う。釘の使い方が違う。誰が設計したのか、地元の大工に聞いたが、「殿のご指示で」とだけ答えた。
市は活気があった。が、それ以上に気になったのは、商人たちの落ち着きだった。
揉め事が少ない。
他の城下では、市場で怒声が飛び交うのは日常だ。なのにここは、何か取り決めがあるように整然としていた。
そして昨日、子どもが地面に文字を書いているのを見た。
農家の子だった。着物は粗末だったが、字は丁寧だった。
男は甲斐への書状に、一行だけ書き足した。
「越後は、静かに強くなっている」
それだけで十分だと思った。
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