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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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203/288

第203話「武田の斥候、越後を見る」

甲斐から来た男は、商人の格好をしていた。


三十二歳。武田の諜報を担う者の一人だった。


越後の城下を歩いて、五日が経つ。


橋は本当に頑丈だった。以前、武田の者が渡ったことのある橋とは別物だった。木の組み方が違う。釘の使い方が違う。誰が設計したのか、地元の大工に聞いたが、「殿のご指示で」とだけ答えた。


市は活気があった。が、それ以上に気になったのは、商人たちの落ち着きだった。


揉め事が少ない。


他の城下では、市場で怒声が飛び交うのは日常だ。なのにここは、何か取り決めがあるように整然としていた。


そして昨日、子どもが地面に文字を書いているのを見た。


農家の子だった。着物は粗末だったが、字は丁寧だった。


男は甲斐への書状に、一行だけ書き足した。


「越後は、静かに強くなっている」


それだけで十分だと思った。


(次話へ)

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