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第200話「均衡の記録」
この年、越後に特別な事件はなかった。
大きな戦もなかった。誰かが死んだわけでもない。誰かが裏切ったわけでもない。
ただ、橋が増えた。
市が育った。
人が集まった。
文字を覚えた子どもが、翌年には弟に教えた。
鍛冶職人が一人来て、二人になり、やがて小さな鍛冶街ができた。
宿が増えた。荷馬が増えた。川を往来する船が増えた。
誰も「越後が変わった」とは言わなかった。
変化は静かすぎて、気づかれなかった。
だがこの年の記録を、三十年後に読んだ者はこう書き残している。
「この頃すでに、越後の構造は出来上がっていた。我々はただ、それを知らなかっただけである」
兼継、十三歳。
戦国の世の片隅で。
誰も知らないまま。
国家の骨格が、静かに固まりつつあった。
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