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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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200/288

第200話「均衡の記録」

この年、越後に特別な事件はなかった。


大きな戦もなかった。誰かが死んだわけでもない。誰かが裏切ったわけでもない。


ただ、橋が増えた。


市が育った。


人が集まった。


文字を覚えた子どもが、翌年には弟に教えた。


鍛冶職人が一人来て、二人になり、やがて小さな鍛冶街ができた。


宿が増えた。荷馬が増えた。川を往来する船が増えた。


誰も「越後が変わった」とは言わなかった。


変化は静かすぎて、気づかれなかった。


だがこの年の記録を、三十年後に読んだ者はこう書き残している。


「この頃すでに、越後の構造は出来上がっていた。我々はただ、それを知らなかっただけである」


兼継、十三歳。


戦国の世の片隅で。


誰も知らないまま。


国家の骨格が、静かに固まりつつあった。


(次話へ)

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