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第197話「京から来た男」
越後に学者が流れ着いたのは、誰も気に留めないほど静かな出来事だった。
名を坂本玄斎という。
五十八歳。
かつて将軍家に仕えた文官だった。応仁の乱以降、京は何度も燃えた。仕える先が消えるたびに西へ東へ流れ、気づけば越後の城下に小屋を借りていた。
荷物は書物だけだった。
城下の子どもたちが寄ってきたのは三日後のことだ。
玄斎は追い払わなかった。ただ地面に文字を書いた。子どもたちは最初、それを遊びだと思っていた。
だが一週間後。
農家の父親が玄斎の小屋を訪ねてきた。
「うちの娘が、俺の知らない字を書いた」
声に怒りはなかった。
ただ。
どこか、困惑していた。
玄斎は茶を出した。そして言った。
「読めれば、損はしませんよ」
父親はしばらく黙っていた。
それから、頷いた。
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