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第17話「牙」

武田は、止まらなかった。


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崩されても。


---


削られても。


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進む。


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それだけで、異常だった。


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越後。


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上杉兼継は、静かに地図を見ていた。


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「……まだ来るか」


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短い言葉。


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「はい。武田、再進軍開始」


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「速度、維持」


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「補給損耗、無視」


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報告が続く。


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普通なら、あり得ない。


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兵が持たない。


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軍が壊れる。


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だが。


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「武田信玄」


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兼継は、わずかに目を細める。


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「兵を前へ出せる」


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それが、一番厄介だった。


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恐怖では止まらない。


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損害でも止まらない。


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ならば。


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「……折るしかない」


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空気が、変わる。


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家臣の一人が、恐る恐る問う。


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「……どこを」


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兼継は、即答した。


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「誇り」


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その一言で。


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全員の背が、冷える。


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「武田は、強さで立っている」


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「ならば」


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間。


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「強さごと潰す」


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甲斐。


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武田本陣。


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信玄は、進軍を止めなかった。


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「このまま押す」


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周囲がざわつく。


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「しかし、損害が」


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「構わん」


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即答。


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「止まれば、終わる」


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それを理解している。


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兼継は、“止まった側”を殺す。


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ならば。


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進むしかない。


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「……来るぞ」


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信玄が、前を見る。


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静かだ。


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静かすぎる。


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その時。


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遠くで。


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鐘が鳴った。


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一度。


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二度。


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三度。


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「……?」


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武田兵が、顔を上げる。


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そして。


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山の上。


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旗。


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無数。


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「上杉だ!」


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叫びが上がる。


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だが。


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動かない。


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ただ。


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並んでいる。


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「……何だ」


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信玄が、目を細める。


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次の瞬間。


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旗が、割れた。


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中から現れる。


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火輪銃。


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百五十。


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全員が、同時に構える。


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「撃て」


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乾いた轟音。


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一斉射。


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最初に落ちたのは。


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武田の先鋒。


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次。


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騎馬隊。


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さらに。


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副将。


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「……っ!」


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一瞬で、前線が消える。


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だが。


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信玄は、動かない。


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「前へ出ろ!!」


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咆哮。


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武田軍が、再び前へ出る。


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「……まだ来るか」


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兼継が、静かに呟く。


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普通なら。


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終わっている。


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だが。


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武田は違う。


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兵が。


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信玄を見ている。


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立っている限り。


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折れない。


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「なるほど」


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兼継の目が、細くなる。


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「そういう軍か」


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理解した。


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武田軍は。


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武田信玄そのもの。


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ならば。


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壊す場所は、一つ。


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「……狙え」


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火輪銃隊が、一斉に照準を変える。


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目標。


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武田信玄。


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空気が、凍る。


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家臣たちですら、息を止める。


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だが。


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信玄は、笑った。


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「来い」


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次の瞬間。


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火輪銃が、再び火を吹く。


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轟音。


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煙。


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雪が舞う。


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そして。


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武田信玄の馬が、崩れた。


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「信玄様!!」


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叫び。


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混乱。


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だが。


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煙の中。


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信玄は、立っていた。


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血を流しながら。


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それでも。


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立っている。


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「……外したか」


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兼継が、静かに呟く。


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違う。


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外れていない。


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避けた。


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ほんの僅かに。


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「……面白い」


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兼継が、初めて笑う。


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それは。


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これまでの“評価”ではない。


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明確な。


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興味。


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戦場。


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武田軍は、歓声を上げていた。


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「信玄様が生きている!」


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それだけで。


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軍が蘇る。


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兼継は、それを見て理解する。


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「……殺す順番を、変えるか」


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短い言葉。


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その瞬間。


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武田軍の後方で。


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爆音。


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補給が、燃え上がる。


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「後ろだと!?」


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兼継は、最初から分かっていた。


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信玄を、一撃では殺せない。


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ならば。


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軍を、先に殺す。


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雪の中。


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武田軍が、初めて止まる。


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進めない。


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補給が消えた。


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退路も、崩されている。


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信玄は、静かに空を見る。


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「……そう来るか」


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笑う。


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血の中で。


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魔王。


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その異名が、初めて“現実”になる。


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武田信玄ですら。


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飲み込まれ始めていた。


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(次話へ)


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