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第164話 芽と井戸
山村。
夕方。
畑。
春の終わりが近づいていた。
芽は増えている。
小さかった緑は。
少しずつ背を伸ばしていた。
老人。
六十七歳。
若者。
二十一歳。
畑を見ている。
そこへ。
旅人が立ち寄った。
橋市帰りだった。
荷を下ろしながら言う。
「井戸掘ってるぞ」
若者が顔を上げる。
「井戸?」
旅人は頷く。
「橋の近くだ」
老人は黙る。
井戸。
橋。
市。
少し前までは無かった話だった。
旅人は笑う。
「そのうち町になるな」
軽い言葉。
だが。
老人は畑を見る。
芽。
橋。
井戸。
全部同じだった。
少しずつ育つ。
すぐには変わらない。
だが。
気付けば大きくなる。
老人は空を見る。
春の空。
そして。
小さく言った。
「越後も育ってるな」
若者は頷いた。
畑の芽が風に揺れる。
国もまた。
同じように育ち始めていた。
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