151/288
第151話 氏康三十七歳の算盤
小田原。
夜。
北条氏康。
三十七歳。
算盤を弾いていた。
乾いた音。
兵糧。
税。
村。
人。
数字は正直だった。
家臣が報を読む。
越後。
橋運用開始。
荷流通増加。
病減少。
相変わらず地味な内容だった。
だが。
氏康は聞いていた。
真面目に。
丁寧に。
「戦は」
家臣が言う。
「ありません」
氏康は小さく笑う。
「それが厄介だ」
刀を抜かぬ。
城も攻めぬ。
それでも強くなる。
そういう相手だった。
氏康は空を見る。
遠い北。
越後。
そして。
十三歳の少年。
今はまだ小さい。
だが。
十年後。
二十年後。
どうなっているのか。
氏康にも分からなかった。
(次話へ)




