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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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第144話 静かな春

山村。


夜。


囲炉裏。


火が静かに燃えている。


味噌の香り。


湯気。


少しだけ増えた具。


子どもたちの笑い声。


女が鍋を混ぜる。


若者が壁にもたれる。


老人が火を見る。


いつもの夜。


だが。


去年とは違う。


去年は。


春が来るか分からなかった。


病。


寒さ。


飢え。


近すぎた。


今も楽ではない。


豊かでもない。


だが。


違う。


薬が届く。


塩が届く。


布が届く。


人が笑う。


子どもが眠る。


老人は火へ薪を入れた。


ぱちり。


火花。


その光を見ながら呟く。


「良い春だ」


誰にも聞こえないほど小さな声。


だが。


囲炉裏の暖かさが。


その言葉を包んでいた。


外では夜風。


それでも。


家の中には。


静かな春が来ていた。


(次話へ)


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