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第13話「侵攻」

雪が、降っていた。


静かな雪だった。


---


だが。


---


その下で、数千の兵が動いている。


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武田。


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甲斐最強。


そう呼ばれる軍勢。


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その先頭を。


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武田信玄が進む。


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「……速いな」


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側近が呟く。


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通常の進軍ではない。


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止まらない。


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補給を削り。


荷を捨て。


速度だけを優先している。


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「読まれる前に着く」


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信玄の声は、低い。


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それが、唯一の勝機。


---


上杉兼継は、“準備”を崩せない。


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ならば。


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準備が終わる前に届く。


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それだけ。


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「火輪銃の射程に入る前に、距離を潰す」


---


誰も反論しない。


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理屈は、正しい。


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だが。


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相手は、あの魔王。


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不安が消えることはない。


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越後。


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報は、当然届いている。


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「……早い」


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兼継は、地図を見ながら呟く。


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「補給を削っております」


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「兵が疲弊します」


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家臣の声。


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だが。


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「正しい」


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兼継は、即座に肯定した。


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「前回で学んだ」


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止まれば読まれる。


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準備すれば崩される。


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だから。


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速度で押す。


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「武田信玄らしい」


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わずかな評価。


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「では、迎撃を」


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家臣が問う。


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「不要」


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即答。


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空気が止まる。


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「……不要、でございますか」


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「そうだ」


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兼継は、地図に指を置く。


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「通せ」


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理解が、追いつかない。


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「入らせる」


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短い説明。


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「止めれば、警戒される」


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「ならば」


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間。


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「安心させろ」


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それが、一番危険だった。


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数日後。


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武田軍は、進む。


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異常な速度で。


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そして。


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止められない。


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伏兵もない。


---


妨害もない。


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「……何も、ない?」


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側近が、眉をひそめる。


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信玄は、黙っている。


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違和感。


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だが。


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進める。


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進めてしまう。


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「……近いな」


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越後本陣まで、あと僅か。


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「このまま押し切れば――」


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その瞬間。


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信玄が、手を上げる。


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「止まれ」


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全軍停止。


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空気が変わる。


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「……どうされました」


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「静かすぎる」


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短い言葉。


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それだけで、十分だった。


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見える。


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道。


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谷。


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左右の森。


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あまりにも、“綺麗”だ。


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「……そういうことか」


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理解した。


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“ここで戦わせる気だ”。


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「退――」


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命令が、最後まで続かなかった。


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音。


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乾いた破裂。


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旗持ちが、倒れる。


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二発。


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伝令。


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三発。


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側面の指揮官。


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「散開!」


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信玄の声が飛ぶ。


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早い。


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異常なほどに。


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だが。


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遅い。


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森が、動く。


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伏兵。


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左右から、一斉に現れる。


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「囲まれ――」


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最後まで言えない。


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矢。


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槍。


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そして。


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再び、火輪銃。


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乾いた発砲音が、戦場を裂く。


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「……っ!」


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武田の兵が、次々に崩れる。


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だが。


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武田も、崩れない。


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「前へ出ろ!」


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信玄が、自ら前へ進む。


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逃げない。


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止まらない。


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それだけで、武田軍は持ち直す。


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遠く。


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兼継は、それを見ていた。


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「……やはり、残る」


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評価。


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「普通なら、終わっている」


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だが。


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武田信玄は、終わらない。


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「面白いな」


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静かな声。


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その時。


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初めて。


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兼継の目に、わずかな熱が宿る。


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戦場。


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武田軍は、突破を始めていた。


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犠牲を払いながら。


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無理やり。


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前へ。


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「……抜ける気か」


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兼継が呟く。


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「はい。このままでは」


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「そうか」


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短い返答。


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そして。


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「ならば、通せ」


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家臣が、息を呑む。


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「……よろしいのですか」


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「問題ない」


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兼継は、静かに言う。


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「もう、壊れている」


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その言葉通り。


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武田軍は、突破した。


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だが。


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兵数。


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指揮。


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補給。


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その全てが、削られている。


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勝っていない。


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だが。


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負け切ってもいない。


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信玄は、振り返る。


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遠く。


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高所に立つ、小さな影。


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上杉兼継。


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視線が、交わる。


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ほんの一瞬。


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それだけで。


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互いが理解する。


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次もある。


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終わらない。


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戦国は、さらに深く沈み始めていた。


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(次話へ)


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