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第120話 春を待つ火
山村。
夜。
囲炉裏。
火が揺れていた。
味噌の香り。
少しだけ増えた飯。
去年より。
ほんの少しだけ多い。
子どもが椀を抱える。
若者が泥を払う。
橋場帰りだった。
女が聞く。
「出来そう?」
若者が頷く。
「もう少し」
短い言葉。
囲炉裏の空気が少し緩む。
老人が火を見る。
去年なら。
春の話などしなかった。
今日。
生きる。
それだけだった。
だが。
今は少し違う。
橋が出来れば。
薬が早く来る。
塩も届く。
冬も少し軽くなる。
子どもが眠そうに言う。
「春になったら、お腹いっぱい?」
沈黙。
女が笑いそうになって止まる。
老人が火を見る。
長い沈黙。
そして。
ゆっくり頷く。
「……そうしたいな」
外では風。
まだ寒い。
それでも。
囲炉裏の前には。
少しだけ未来の話が座っていた。
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