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第116話 春前の話
山村。
夜。
囲炉裏。
火が、ぱちりと鳴る。
湯気。
味噌。
薄い飯。
それでも。
去年より、少し多い。
子どもが眠そうに椀を抱える。
若者が泥を払う。
今日も橋場帰りだった。
女が鍋を混ぜながら聞く。
「進んだ?」
若者が頷く。
「あと少しだ」
短い言葉。
それだけで。
囲炉裏の空気が少し緩む。
老人が火を見る。
去年なら。
こんな話はしなかった。
今日、生きる。
寒さを越える。
それだけだった。
だが。
今は少し違う。
橋が出来たら。
荷が来る。
薬が来る。
冬が少し軽くなる。
子どもが小さく言う。
「春になったら、いっぱい食べれる?」
女の手が止まる。
老人が火を見る。
長い沈黙。
そして。
小さく頷いた。
「……そうなるように、皆働いてる」
短い声。
外では風。
寒さはまだ近い。
だが。
囲炉裏の周りには。
少し未来の話が座るようになっていた。
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