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第113話 春水の音
朝。
越後。
川。
雪解け水が、まだ強く流れていた。
橋場。
濡れた木材。
泥に沈む足。
縄を引く音。
木槌が杭を打つ乾いた響き。
冷えた風が、袖へ入る。
兵が肩で息をする。
若者が泥を払う。
老人が縄を確かめる。
兼継は橋の中央近くに立っていた。
裾は泥。
足袋も濡れている。
昨夜の墨が、まだ指先に少し残っていた。
「右を上げろ」
短い声。
すぐに人が動く。
誰も急いで返事をしない。
先に手が動く。
それが、最近の橋場だった。
若い兵が、小さく笑う。
「兼継様、川より現場にいるな」
隣の男が鼻を鳴らす。
「城よりここだろ」
小さな笑い。
すぐまた木を持つ。
兼継は川を見る。
強い流れ。
気を抜けば奪う。
橋も。
国も。
少し放れば崩れる。
だから。
毎日積む。
派手ではない。
だが。
それしかない。
川音が響く。
橋は。
また少しだけ伸びていた。
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