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第111話 氏康の不安
小田原。
朝。
まだ人の少ない庭。
露が石に残っていた。
北条氏康は歩いていた。
家臣が後ろにつく。
「越後、また橋を延ばしたようで」
短い報。
氏康はすぐ答えない。
池の水面を見る。
風が、小さく揺らした。
「妙だな」
ぽつり。
寒国。
貧国。
本来なら。
削れる。
冬を越えれば弱る。
民が減る。
兵が逃げる。
だが。
最近の報は違う。
橋。
道。
荷。
病。
村。
戦ではない。
暮らしの報ばかり。
氏康は立ち止まった。
「兵は飯で動く」
低い声。
「民も同じだ」
家臣が黙る。
飢えぬ国。
逃げぬ民。
それは。
思った以上に強い。
刀は折れる。
武勇も消える。
だが。
暮らしは、静かに積もる。
氏康は空を見た。
曇り。
遠い北。
越後。
まだ小さい。
だが。
火が消えぬ。
それが、どうにも気持ち悪かった。
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