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第109話 朝靄の荷
朝。
越後。
山あいに薄い靄が残っていた。
濡れた草。
冷えた空気。
街道には、昨夜の雨がまだ少し残る。
それでも。
荷馬は止まらない。
車輪が泥を噛む。
軋む音。
馬の鼻息。
荷を押す男の荒い呼吸。
去年なら。
ここで止まった。
車輪が沈み。
荷が濡れ。
半日が消える。
時には丸ごと引き返すこともあった。
だが。
今日は違う。
兵が石を積んでいた。
崩れた端を直す。
若い者が木を運ぶ。
年寄りが縄を編む。
誰かが怒鳴る訳ではない。
それでも。
皆、手を止めない。
止まれば。
届かぬ。
届かねば。
削れる。
それを知っていた。
商人が、泥の付いた草履を見下ろした。
「……通れるな」
小さな声。
誰へともなく。
だが。
その言葉には重みがあった。
道がある。
それだけで。
人は生き延びる。
朝靄の向こう。
橋場では、小さく木槌の音が響いていた。
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