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第108話 囲炉裏の笑い
山村。
夜。
囲炉裏。
味噌の匂い。
少し焦げた薪。
火が、ぱちりと鳴る。
子どもが笑っていた。
去年より。
少し声がある。
少し腹が満ちている。
それだけで。
家の空気は違った。
女が鍋を混ぜる。
老人が手を火へ向ける。
若者が戻る。
肩に泥。
足袋は濡れていた。
橋場帰りだった。
椀を受け取る。
湯気が上がる。
若者が小さく笑った。
「今日、橋で落ちそうになった」
女が眉を寄せる。
老人が鼻を鳴らす。
「死ぬな」
短い言葉。
少し笑い。
去年なら。
こんな笑いは少なかった。
寒さ。
病。
飢え。
近すぎた。
生きるだけで精一杯だった。
だが。
今は少し違う。
火の前で。
少し先の話が出る。
橋が出来たら。
荷が早くなる。
冬が少し楽になる。
子どもが眠そうに呟く。
「おなか、へってない」
女の手が少し止まった。
老人も黙る。
そして。
小さく息を吐いた。
外は寒い。
春も遠い。
それでも。
囲炉裏の周りだけ。
少し未来の話が出来るようになっていた。
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