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第107話 氏康の算盤
小田原。
夜。
灯が揺れる。
紙の上に、算盤が置かれていた。
北条氏康は静かに珠を弾く。
兵糧。
馬。
人。
冬越え。
川。
道。
戦だけではない。
国の数だった。
家臣が口を開く。
「越後、攻めますか」
氏康は、すぐ答えない。
指が珠を弾く。
乾いた音。
「まだだ」
低い声。
「崩れるかもしれん」
沈黙。
だが。
氏康の目は細い。
「……だが、崩れぬなら厄介だ」
戦だけの者は折れる。
勝ち負けで削れる。
だが。
暮らしを積む者は違う。
民が残る。
兵が離れぬ。
金が流れる。
時間が味方する。
窓の外。
夜風。
遠く。
犬が鳴く。
氏康は珠を止めた。
越後。
まだ小さい。
だが。
火が消えない。
それが、嫌だった。
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