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第106話 遠国の商人
関東。
宿場町。
昼。
土煙。
荷車。
怒鳴り声。
笑い声。
旅人の草履が泥を落とす。
商人たちが茶屋へ集まっていた。
湯気。
濡れた手。
安い酒。
誰かが言う。
「越後、最近また荷増えたぞ」
別の男が顔をしかめる。
「寒国だろ」
「普通、春先は崩れる」
「道が死ぬ」
「荷が止まる」
皆、知っていた。
越後とは。
痩せた国だ。
雪。
寒さ。
遠さ。
削られる土地。
だが。
最近は違う。
塩。
薬草。
干し魚。
遅れながらも届く。
少ないながら切れぬ。
茶を啜っていた老人商人が言った。
「戦してねえ」
沈黙。
「なのに強くなってる」
誰も笑わなかった。
兵は増えなくても。
腹が減らねば人は残る。
人が残れば。
国は崩れにくい。
老人は窓の外を見た。
「……静かな国ほど怖え」
雨上がりの道を。
荷車がまた進んでいた。
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