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# 第9話 寒いので、こたつを出した(ふるいたつ)


 寒くなってきた。


 朝、布団から出るのが、つらい季節になった。窓の結露を見て、ああ、冬だな、と思う。わたしは、押入れの奥から、こたつを引っぱり出した。去年の、安いやつ。脚をひとつ組み立てるときに、ねじが一本、足りない気がしたけれど、たぶん気のせいだ。


 こたつをセットして、スイッチを入れた。じんわり、温かくなってきた。足を入れて、ぼうっとしていたら、押入れのほうから、古竜さんが顔を出した。尻尾が、犬みたいだ。


「なんだ、この、温かい気配は」


「こたつ」


「こたつ」


「下が温かくなる、箱です」


「下が」


「うん」


「……天井ではなく」


「天井は温かくならないですね」


 古竜さんは、すこし、考える顔をした。空に巣を構えていた古竜さんにとって、熱は、上から来るもの、だったのかもしれない。下から来る熱というのは、たぶん、わりと、新しい概念に思える。


「下から温める。ふむ。理にかなっておらぬようでいて、かなっておる」


「かなってます」


 古竜さんは、しばらく、襖の隙間から、こたつをうかがっていた。ねぐらも暖かいはずだったけれど、こたつの放つ熱は、また別の魅力があるのか、じりじり、と、畳に出て、にじり寄ってきた。にじり寄ってきて、こたつの一歩手前で、止まった。


「入って、いいですよ」


 言ったら、古竜さんは、はっとした顔をした。それから、見栄を張るように、つん、と、顔を背けた。


「我は古竜だ。竜は、おのれの体温で生きる。外の熱など、必要ない」


「そうですか」


「うむ。外界の力など必要ない」


「麦茶は飲むのに」


「麦茶は、別だ」


「別なんですね」


「別である。麦茶は、たしなみ。これは、依存、だ。古竜は、ものに、依存せぬ」


 立派な心がけだと思った。必要ない、と、言いながら、古竜さんの尻尾の先は、もう、こたつ布団の下に、すべりこんでいた。尻尾だけ。本体は、まだ、必要ないという顔をしている。


 わたしは、見て見ぬふりをした。尻尾は、こたつの中で、気持ちよさそうに動いている。依存というものは、おそろしいものだ。


 しばらくして、ふと気づくと、尻尾だけだったのが、足まで入っていた。さらにしばらくすると、お腹まで入ってきた。


「あったかいですか」


「……我は、ここにおらぬ」


「いますけど」


「気のせいである」


 最終的に、古竜さんは、こたつの中に、すっぽり収まっていた。角だけが、こたつ布団から、ちょこんと出ていた。


「必要ない、んですよね」


「……これは、視察である」


「視察」


「この熱の箱が、貴様の生活に害をなさぬか、古竜として、見定めておるのだ」


「中から見定めるんですね」


「中が、いちばん、よく見える」


「外は、寒いもんね」


「外からは、見えぬ」


 これなら、よく見えるだろう、と思っていると、古竜さんは、こたつの中で、丸くなっていた。そして、角だけ出てきて、すうすう、寝息が聞こえる。視察は五分で終わったらしい。古竜さん、次のねぐらは、こたつにするつもりか?


 丸まった背中が、足の先に触れた。すごく、温かかった。竜は、おのれの体温で生きる、本当だった。これなら、外界の箱など、必要ないかもしれない。でも、こたつには、入っていた。


 こたつから出るとき、みかんを、ふたつ、近くに、置いておいた。


 しばらくしたら、片方だけ、なくなってるのかな。


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