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# 第10話 今日の力は「蒼天飛翔」だった(棚の上の箱が取れた)


 棚の上に、お菓子の箱があった。


 いただきものの、クッキーの缶。背の高い棚の、いちばん上に載っていた。去年、お母さんがそこに置いて、わたしには届かない。椅子を持ってくるのが、面倒だった。


「古竜さん、あれ、取れます?」


 こたつから、ついでみたいに、聞いてみた。古竜さんは、みかんを食べながら、ちらりと棚を見た。


「造作もない」


 もぞもぞと、こたつから出てきた。背中の、小さな翼を、ぴん、と広げた。たためるくらいの、ほんとうに小さな翼だった。


「我が飛翔の加護。名を――『蒼天飛翔ドラゴンフライ』。古竜の翼は、天の果てまで、ひとっ飛び。天を穿ち、雲を裂き、星をかすめ、いかなる高みも、我には地続きである!」


「星はいいので、棚の上を」


「任せておけ」


 古竜さんは、ぱたぱた、と翼を動かした。ふわり、と、体が浮いた。……浮いた。畳から、十センチくらい。


 十センチで、止まった。


「もうちょっと、上です」


「うむ」


 ぱたぱた。十五センチ。ぱたぱた、ぱたぱた。二十センチ。そこから、上がらなかった。天の果てまで、ひとっ飛びのはずが、棚の二段目あたりで、もう、限界そうだった。


「天の果て、もうちょっと、上です」


「……今日は、向かい風か」


「部屋ですよ」


「部屋にも、風は、ある」


「窓しめてます」


「無風という名の、風、だ」


 無風という名の風は、聞いたことがなかった。風は、なかった。古竜さんの翼は、二十センチの高さで、ぷるぷる震えていて、だんだん小刻みになっていた。クッキーの缶までは、まだ、ずいぶん遠かった。


 見ていられなくなって、わたしは、立ち上がった。古竜さんの体を、両手で持ち上げた。軽かった。びっくりするくらい、軽くて、そのまま、棚の高さまで持ち上げてやった。


「届きますか」


「……届く」


 古竜さんは、わたしの手の上から、クッキーの缶を、ぐいっと引き寄せた。缶が、棚から、すべり落ちてきて、わたしは片手で、なんとか受け止めた。古竜さんは、もう片方の手の上で、得意げにしていた。


「どうだ。蒼天飛翔の力である」


「半分、わたしが持ち上げましたけど」


「貴様は、風よけだ。古竜の飛翔を助けたのだ。誇るがいい」


「半分以上、持ち上げた気がします」


「風よけの働きが、良かったのだ」


 最後まで、自分で飛んだことにしていた。わたしは、古竜さんを畳に下ろして、クッキーの缶を開けた。中身は、半分くらい湿気っていた。去年の缶だから、当然だった。それでも、二人で食べた。湿気ったクッキーは、こたつの中で食べると、わりと、おいしかった。


「見よ、こたつの熱で、サクサクだぞ」


 古竜さんは、運動したぶん、よく食べた。蒼天を翔ける竜が、こたつでクッキーを食べている。


 空は今日も、棚の上より、ずっと高いところにあった。


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