# 第11話 お客さんが、来た(ステイちゅーん)
ベランダに見慣れない鳥がいた。
いや、鳥じゃなくて、小さくて、翼があって、尻尾があって、ここまでは鳥で、頭に角が二本。古竜さんを、ひとまわり小さくしたような姿だった。手すりの上に止まって、こちらを、じっと見ていた。ん、やっぱり鳥だ。
「古竜さん」
わたしが呼ぶと、古竜さんは、こたつから顔を出した。ベランダの、小さいのを見て、ちょっとだけ目を見ひらいた。古竜さんって、目もきれいだ。
「……来たか」
古竜さんは、こたつから出て、ベランダの窓を開けた。小さいのは、ふわりと部屋に入ってきて、畳の上に降りた。二匹は(←しつれいだろ)向かい合った。何も言わなくて、しばらく、ただ見つめ合っていた。
わたしは、口を挟まないことにした。そういう場面な気がする。
やがて小さいほうが、ちいさく、きゅう、と鳴いた。古竜さんは、うむ、と、うなずいた。それだけで、それで、何か通じたようだった。
「お、お知り合いですか」
「昔の、知った顔だ」
「空の、ですか」
「うむ。空の」
「仲、よかったんですか」
聞いたら、古竜さんは、すこし、間を置いた。小さいのの、まんまるな目を、見ていた。
「隣の、巣だった」
隣の巣。それ以上は言わなかった。小さいのは、こたつのほうを、ちらりと見た。それから、古竜さんを見た。何か、聞いているような目だった。たとえば、どうしてこんなところに、いるのか、とか。なぜ、空に帰らないのか、とか。
古竜さんは、その目に、肩をすくめてみせた。
「ここが、気に入った。それだけだ」
古竜さんは、たぶん、わたしに言っている気がした。小さいのは、すこし、首をかしげて、それから、もう一度、きゅう、と鳴いて、納得したような、していないような顔をした。
わたしは、麦茶を三つ注いだ。ひとつは古竜さんの、ひとつはわたしの、ひとつは、お客さんの。小さいのは、コップに顔を近づけて、ちろちろ、つついた。それから、ぱっと顔を上げて、目をまんまるにした。
「おいしい、って」
「うむ。空には、麦茶がないからな」
古竜さんは得意げだった。まるで、自分が作ったみたいな顔で。麦茶は、わたしが沸かしたのだけれど、まあ、いいことだ。
小さいのは、麦茶を飲み終えると、こたつのほうを、もう一度見た。それから、古竜さんを見て、きゅう、と鳴いた。一緒に来るか、と誘っているような、鳴き方、か。
古竜さんは、首を横に振った。一度だけ。
小さいのは、それ以上、誘わなかった。ふわりと、手すりに戻って、一度だけ、こちらを振り返って、それから、空のほうへ飛んでいった。それで、あっというまに点になって、消えた。
「帰っちゃいましたね」
「うむ。あれは、空のほうが、好きなのだ」
「……古竜さんは」
「我は、こたつのほうが、好きだ」
それだけ言って、古竜さんは、また、こたつに戻っていって、角だけ出して、丸くなった。空から来たお客さんは、空に帰り、古竜さんは、こたつに残った。
なぜ、ここに来たのか、なぜ、帰らないのか、聞けなかった。聞いても、たぶん、こたつのほうが好きだから、で終わる気がした。
わたしは麦茶を、もう一杯、沸かすことにした。




