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# 第12話 今日の力は「竜眼」だった(なくし物が見つかった)


 鍵が、なかった。


 家の鍵。出かけようとして、いつもの場所にない。カバンの中も、机のな、上にも、ポケットにも、ない。わたしは部屋をひっくり返し始めた。生活下手の、いつものやつだ。


「騒がしいな」


 古竜さんが、こたつから顔を出した。最近はこたつを拠点に、部屋のあちこちをうろうろしている。さっきも、本棚のあたりを、ぺたぺた歩いていた。


「鍵、なくしました」


「ふむ。ならば、これを授け、るまでもないな」


 古竜さんはこたつから出てきて、わたしの前に立って、すっと、目を細めた。瞳が、きらりと、金色に光った気がした。


「我が看破の加護。名を――『竜眼ばんしょうかんぱ』。古竜の眼は、万象を見通す。隠されしものも、失われしものも、この眼から逃れることはできぬ。世界の理さえ、我の前では、裸である!」


「鍵の場所、分かりますか」


「造作もない」


 古竜さんは、竜眼で、部屋を、ぐるりと見回した。本棚、机、こたつ、押入れ、こたつ。ゆっくりと、視線が動いた。それから、ぴたりと、止まった。


「……あそこだ」


 指さしたのは、こたつだった。


「こたつ布団を、めくってみよ」


 わたしは、こたつ布団をめくった。鍵が、あった。こたつの中の、カーペットの上に落ちていた。たぶん昨日、こたつに入ったときに、ポケットから落ちたのだ。


「ありました」


「であろう。竜眼の前に、隠せるものはない」


「これ、さっき古竜さんが、こたつにいたからじゃ」


 古竜さんが、遠くを見た。


「万象を、見通したのだ」


「こたつの中、いちばん長くいたの、古竜さんですよね」


「結果として、見通している」


「見たんですね、落ちるの」


「見て、いない。見通した、のだ」


「同じでは」


「違う。見たのは、目。見通したのは、竜眼、だ」


 言い分けが、細かかった。万象を見通す眼は、要するに、いちばんこたつにいた者の、記憶、だった。それでも、鍵は見つかったので、文句はなかった。


「ありがとうございます。助かりました」


「うむ。困ったときは、頼るがいい。古竜の眼は、いつでも、貴様のために開いている」


「じゃあ、次なくしたときも、お願いします」


「うむ。ただし、こたつの中に限る」


「範囲、せまいですね」


「眼は、近くから、見通すものだ」


 万象を見通す眼の有効範囲は、こたつの中だけだった。古竜さんは、得意げに、胸を張って、それから、また、こたつに戻っていった。万象を見通す眼を持つ竜が、こたつの番をしていた。なくし物の名所も、こたつだった。


 わたしは、こたつの古竜さんに、声をかけた。


「いってらっしゃい、くらい、言ってくれて、いいんですよ」


「……いってらっしゃい」


 ちょっと、照れていた。万象を見通す眼も、自分のことは、見えないだろう。


 ははは。


 家を出て、鍵を、今度こそ、カバンの奥に、ちゃんとしまった。


 ふと、見上げると、二階の窓に、古竜さんがいた。


 こっちを、見ていたけど、すぐ尻尾になって、消えた。


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