# 第13話 古竜さん、もぐる(とーふオンファイア)
その日は、鍋にした。
ひとり鍋、のつもりだった。お母さんは、朝まで帰らない。わたしは、台所で、白菜と、豆腐と、あり合わせの肉を、土鍋に放りこんだ。生活下手なりに、鍋だけは、失敗しない。切って、入れて、火にかける、だけ。
ぐつぐつ、と煮えてきた。火を止めて、鍋つかみで、土鍋を持ち上げる。熱い。気をつけて、階段を、のぼった。湯気が、ついてくる。
こたつの上に、土鍋を置いた。いい匂いが、部屋に、ひろがる。
こたつが、もそ、と動いた。
「……なんだ、その、匂いは」
「いろいろ、煮た料理です」
古竜さんは、こたつ布団から、顔だけ、出した。鼻先を、土鍋のほうへ、ふらふらと、向けながら、けれど、体は、こたつの中に入れたまま、出てこなかった。湯気の向こうで、角が、ゆらめいていた。
「食べますか」
聞いたら、古竜さんは、ふん、と顔を背けた。
「我は、古竜だ。人間の食事に、加わらぬぞ」
「そうですか」
「古竜は、霞を食う」
「霞、ありますか、ここに」
「ある」
「鍋も、ありますけど」
「……匂いの検分は、しておく」
また、視察だった。
「この匂いが、貴様に害をなさぬか、古竜として、見定めておこう」
古竜さんは、こたつから出した顔で、土鍋の湯気を、すんすん、と嗅いでいた。見定めるにしては、ずいぶん、鼻先が遠かった。あと一歩、こたつから出れば、土鍋の前なのに。
わたしは、小皿に、豆腐を、ひとつ、取り分けた。ふうふう、と冷まして、こたつから出ている、古竜さんの顔の近くに、そっと、置いた。
「検分用です。毒見、お願いします」
古竜さんは、ちらりと、豆腐を見た。それから、わたしを見た。毒見、という口実が、気に入ったようだった。
「うむ。毒見ならば、致し方ない」
小さな手で、小皿を、つかんだ。手前で、一度、ためらって、それから、思いきったように、はふ、と口に入れ「っ、あッっっつ!!」……て、もぐもぐ、した。それから、目を、まんまるにした。三千年生きた古竜さんは、豆腐も吐けるらしい。
「……あつい。それに、うまい」(注:やけどしてません)
「豆腐、ふいといてね」
「……うむ。毒は、なかった。が、念のため、もう一つ、検分が要る」ごしごし
「どうぞ」
「鍋とは、すごいものだな。もぐ、空には、なかった」もぐ
それからまた、ねだるように、わたしを見るので、もうひとつ、取り分けてやった。古竜さんは、こたつから、半分だけ出た格好で、豆腐を食べた。まだ、ちゃんとは、出てこなかった。
鍋は、ふたりで食べると、ひとり鍋より、ずっと、早く、なくなった。古竜さんは、最後まで、こたつから半分だけ、出ていた。もしかしたら、土竜さんなのかもしれない。




