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# 第14話 今日の力は「万象凍結」だった(麦茶がすぐ冷えた)


 麦茶が、熱すぎた。


 二リットルの鍋いっぱい。古竜さんのぶんと、わたしのぶん。沸かしたてで、湯気を立てている。熱くて、冷めるまで待たないといけない。わたしは鍋を前に、ぼうっとしていた。


「待つのが、退屈そうだな」


 古竜さんが、台所にきた。


「麦茶が、冷めなくって」


「ふむ。まかせろ」


 古竜さんは麦茶の鍋の前に立って、すっと、手をかざした。指の先に、白い、冷たい気配が集まった。


「我が氷結の加護。名を――『万象凍結アブソリュート・ゼロ』。古竜の冷気は、万物の動きを止める。流れる水も、燃える炎も、時さえも、この冷気の前では、凍りつく。世界を、静止させる、絶対の力である!」


「麦茶を"冷ましたい"だけ、なんだよな〜」


「これは、絶対零度、だ。手加減が難しい」


「絶対零度って、いちばん冷たいやつですね」


「うむ。それより下は、ない」


 指の先で、冷気が、しゃり、と音を立てた。空気が、きん、と張りつめる。世界を静止させる絶対零度が、麦茶のために、古竜さんの指先に、満ちていく。


「麦茶、凍りませんか」


「凍る寸前で、止める。それが、わざ、だ」


「ほどほどで、おなしゃす」


 古竜さんは慎重に、麦茶の鍋に、冷気を、ふっと、吹きかけた。鍋の表面で、うっすら、湯気が消えた。それから、わたしは、麦茶をコップに注いだ。


 ひとくち飲んだ。


 ちょうど、よかった。熱くも、冷たすぎもしない。きんと冷えた、おいしい麦茶になっていた。氷を入れたわけじゃないから、薄まってもいない。完璧な、麦茶だった。


「すごい。ちょうどいいです」


「であろう。万象凍結の、繊細なる業だ」


「これ、毎回やってほしい」


「毎回は、無理だ」


「眠いから、ですか」


「いや、今日は、いける」


 ん、どっちだ?


「冷やすのは、楽だ。温めるには、力が要る。冷えるのは、放っておけばよい、からな」


「なるほど?」


 古竜さんはめずらしく乗り気だった。それから、こたつにも冷気を吹きかけて、みかんが、しゃりっと凍った。シャーベットみたいで、食べてみたら、それもおいしかった。


 調子に乗った古竜さんは次に、わたしのプリンを凍らせた。アイスになった。それから、牛乳を凍らせて、何だかよく分からないものにした。台所の麦茶を、もう一杯、いい感じに冷やした。


「世界を、静止させる力、なんですよね」


「うむ。世界より、おやつのほうが急ぎだ」


 万物の動きを止める冷気は、プリンをアイスに変えるのに忙しかった。世界は、今日もふつうに動いていて、台所だけが、ちょっとひんやりしていた。


---


 夜、よく冷えた麦茶をふたりで飲んだ。古竜さんは満足そうだった。絶対零度の力で作った、ただの、冷たい麦茶。でも、それが、いちばんおいしかった。


 冷凍庫があるのに、と、ちょっとだけ思った。でも、言わないでおいた。古竜さんが、得意げだったので。


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