# 第15話 古竜さん、こたつから出る(でたぁ)
また、鍋にした。
前に作ったとき、古竜さんが気に入ったからだ。
白菜と、豆腐と、肉と、今日は、しめじも入れて、湯気が立って、いい匂いがひろがった。
こたつから、古竜さんが出てきた。もう、鼻をすんすんさせる必要もないみたいで、鍋の匂いがすると、にゅっと、出てくる。
「今日は、しめじも入ってます」
「しめじ」
「きのこです」
「ふむ。検分の対象が増えたな」
「検分、好きですね」
「好きでは、ない。職務、だ」
職務、ということになっていた。古竜さんはこたつから半分だけ出てきて、仕事をはじめる。前と同じ格好で、畳にくっつきながら、土鍋を、じっと見ていた。
「毒見、しますか」
わたしが聞くと古竜さんは、ちょっと考えるような顔をして、それからすこし、転がった。
古竜さんは、こたつの向かい側を見た。土鍋を挟んだ、わたしの向かい。今までちゃんとは出てこなかった、こたつの外。
そして、もそもそ、と、こたつから出てきた。半分ではなく、ぜんぶ。
座った。古竜さんが、わたしの向かいに、座った。
わたしはべつに、何も言わなかった。どうしたんですか、とも、やっと座りましたね、とも、言わなかった。ただ、小皿をひとつテーブルに、古竜さんの前に、置いた。それから、豆腐を供えた。前と、同じように。
「あつい。それに、うまい」
「うん」
古竜さんは向かいで、もぐもぐ食べていた。ちゃんと出て食べると、半分だけのときより、楽そうだった。
土鍋の向こうで、古竜さんの角がゆれていた。湯気越しの古竜さんは、すこし、にじんで見える。
「……古竜さん」
「なんだ」
「……いてくれて、まあ……いいですよ」
言ってから、なんだよ、もう、と思った。べつに、言うほどのことでもなかった。
古竜さんは豆腐をもぐもぐしながら、ちらりと、わたしを見た。
「うむ。我も、ここが、まあ、いい」
鍋がぐつぐつ煮えていた。
古竜さんは向かいで、しめじをひとつ、つまんだ。
ふたりで鍋を食べた。窓の外は、もう暗かった。
押入れの戸は半分だけ、開けている。古竜さんが、いつ、ねぐらに戻ってもいいように。
でも、今日は、まだ、戻りそうになかった。
とりあえずもう一杯、麦茶を注いだ。古竜さんのと、わたしの。
冷たいコップが、ふたつ並んだ。
いい夜だった。
――ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
古竜さんとの押入れの日々は、ひとまずこれでおしまいです。
面白かったとか、よかった回などあれば知りたいです(っ´ω`c)
あと宣伝なんですけど、もしよかったら、もう一作。
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