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# 第8話 ねぐらの宝が、ぜんぶわたしのだった(かえしなさい)


 古竜さんが、宝の自慢を始めた。


「見るがいい。これが、我が三千年をかけて集めし、財宝の山である」


 押入れの襖を、得意げに開けてみせた。ねぐらの奥に、こんもりと、宝の山がある。古竜さんは、その前で、ふんぞり返っていた。


「いちばん大切なものほど、いちばん上に積むのだ。隠す必要などない。盗ろうとする者は、我が焼く。古竜の流儀である!」


 わたしは、山を、よく見た。


 靴下。ヘアピン。十円玉。包み紙。星のピアス。先月なくしたシュシュ。なくしたと思っていたボールペン。それから、いつのまにか消えていた、わたしの、わたしの。


「これ、全部わたしの、ですよね」


「うむ」


「三千年かけて集めたって、わたし、まだ生きて十六年なんだけど」


「……時の流れは、相対的なものである」


「十六年で、三千年ぶんって、ことですか」


「うむ。古竜の体感では、そうなる」


「だいぶ、体感が、伸びますね」


「伸びる日も、ある」


 なにを言っているんだ。古竜さんは、ちょっと目をそらした。目をそらした先に、ちょうど、わたしのヘアピンがあって、気まずそうに、それを、山の下のほうへ、押しこんだ。三千年は、だいぶ、盛っているようだ。


 わたしは、しゃがんで、山のひとつを、確認した。たしかに、全部、わたしのものだった。古竜さんの私物は、ひとつもなかった。三千年なのに、自分の宝が、ひとつもない。


「古竜さんの宝は、ないんですか。空から持ってきたやつとか」


 聞いたら、古竜さんは、すこし、黙った。それから、山のいちばん下のほうから、何か小さなものを、引っぱり出した。


 鱗だ。古竜さんの、緑がかった鱗。一枚。前にわたしにくれて、自分で回収した、あれだった。


「これが、我の宝だ」


「それ、もともと古竜さんのですよね」


「うむ。だが、これだけは、誰のものでもない。我の、ただひとつの持ち物だ」


 山の中で、それだけが、古竜さんのものだった。あとは、全部、わたしの。竜のねぐらは、ほとんど、わたしの落とし物で、できていた。


 なんだか、おかしくなった。世界にひとつしかいない古竜が、三千年だか十六年だか分からない時間をかけて集めた財宝が、わたしの靴下とヘアピンと、自分の鱗一枚。


「持って帰っていいかな。靴下とか、まだ使うし」


「ならぬ」


「片方ずつでも」


「ならぬ。宝は、宝だ」


「片方だけだと、わたしも困るんですよ」


「片方は、味がある」


「両方そろってるほうが、履けます」


「履くために、宝にしたのではない」


 古竜さんは、両手を広げて、山をかばった。小さい体で、精いっぱい、かばっていた。尻尾も使いなよ。でも、かばわれるほどのものは、何もない気がする。全部、わたしの、何でもないものだから。


---


 結局、わたしは、何も持ち帰らなかった。かばっている古竜さんを見ていたら、なんとなく、そのままでいい気がした。


「じゃあ、宝の番、よろしくお願いします」


「うむ。我に任せておけ」


 古竜さんは、得意げに、うなずいた。わたしの靴下の番を、世界でいちばん偉い古竜が、引き受けてくれた。心強いような、そうでもないような、夜だった。


 ひとつだけ。古竜さんの鱗を、山のいちばん上に、乗せておいた。これだけは本物の宝だから、いちばん見えるところに。


 次の朝には、なぜか、いちばん下に戻っていた。


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