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# 第3話 わたしのピアスがねぐらに消える(片方だけ)


 ピアスが、片方、なくなっていた!


 お気に入りの、小さな星の形のやつ。先週、誕生日に、自分で買ったばかりのだった。机の上に置いておいたはずなのに、朝起きたら、片方だけ消えていた。


 心当たりは、一つしかなかった。


「古竜さん」


 わたしは押入れの襖を開けた。古竜さんは、ねぐらの奥に座っていた。手のひらに、わたしの星のピアスを、ちょこんと載せて。


「それ、わたしの」


「これは宝だ」


「わたしの誕生日プレゼントなんですけど」


「光るものはねぐらに集める。古竜の習性でな」


「習性で人のピアス取らないでください」


 古竜さんは、ピアスを手のひらで包んで、胸のほうへ引き寄せた。


「習性は、とめられぬ」


「とめてください」


「とめられぬものを、とめよと言うか。それは、川に、流れるなと言うようなものだ」


「ピアスは、川じゃないので」


「光るという点で、同じだ」


 そう言って古竜さんは、ピアスを両手で抱え込んだ。返す気は、まったくなさそうで、尻尾まで使って、ぎゅっと抱えていた。


 わたしは、しゃがんで、ねぐらの中を覗いた。よく見ると、わたしのものばかりだった。なくしたと思っていた靴下も、先月消えたヘアピンも、全部ここにあった。古竜さんは、それを、宝の山として、大事に積んでいた。


「あのさ」


「なんだ」


「これ、全部わたしのなんだけど」


「うむ」


「うむ、じゃなくて」


「貴様のものは、良いものが多い。見る目があるな」


 褒められた。なんだか変な気分だ。


「たくさんあるし、一個くらい返してね」


「ならぬ」


「一個くらい」


「たくさんあるからこそ、一個も減らせぬのだ」


 理屈になっているような、なっていないような言い分だった。古竜さんは、宝の山のいちばん上を、尻尾でちょいちょいと整えた。山が、わずかに高くなった。


「貴様も、ここに住むか」


「住みません」


「宝の番ができるぞ」


「番をするも何も、盗るのは古竜さんだけなので」


 古竜さんは、それもそうだ、という顔をした。納得しないでほしい。それから古竜さんは、宝の山を、すこし、わたしのほうへ寄せた。半分、譲ってくれるつもりらしい。譲られても、全部、わたしの物だった。


---


 結局、ピアスは返してもらえなかった。代わりに、というわけでもないけれど、古竜さんはねぐらの奥から、何か小さなものを一つ、転がしてよこした。


「ほれ」


 鱗だった。古竜さんの、緑がかった鱗。一枚。尻尾の先と、同じ色をしていた。光の角度で、虹色にきらきら光った。


「交換だ」と、古竜さんは言った。


「古竜の鱗は、めったに人にはやらぬ。ありがたく思え」


 わたしは、その鱗を、手のひらに載せた。ひんやりして、軽かった。古竜さんは、わたしが鱗を見ている横顔を、じっと、見ていた。感想を、待っているのか?


「きれいですね」


「っであろう」


 待っていた感想を、もらえて、満足そうだった。


 ピアスは片方になってしまったけれど、まあ、いいか、と思った。片方のピアスと、一枚の鱗。鱗のほうが、ずっときれいだった。悪くない交換な気がした。


 その鱗を、わたしは机の上の、ピアスが置いてあった場所に、置いた。


---


 次の朝、鱗は、なくなっていた。探したら、ねぐらの山の、一番上に戻っていた。


「それも宝なんだ」


「当然だ。古竜の鱗だぞ」


 自分であげたものを、自分で回収していた。


 わたしは、もう、何も言わないことにした。


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