向き不向きがあるということ
新年一つ目の更新だというのにルークが出てこないです。
次の話はルークいっぱい出したいです。
日も登りきらない早朝、ルークは肌寒さで目を覚ました。
原因はわかっている。ジンがいないせいだ。
今日だけに限らず、この目覚めはここ数日続いていた。
「安眠妨害だ。」
普段ジンに話しかける柔らかさなど皆無の声でルークはぼそりとつぶやいた。
むしろ苛立ちから、鳥状態のときのギイギイという耳障りな音でも聞こえてきそうな勢いである。
ルークはここに来るまで一人で寝起きしていたし、傭兵が集まっている寮という環境で魔術師や野生動物に襲われる心配など他の場所に比べてぐんと低くなる。
なので環境的にはこれほど安心できる場所も珍しい。
だがしかしここに来てからというもの、ほぼ毎晩のように抱きしめられて眠っていた身としてはその体温がなくなるというのは違和感があるものである。
あげくジンが全力でおはようからおやすみまで構い倒してるので、目が覚めて一人という状況が既にイライラの原因になっている。
ルークは自分が使っていた枕に爪を立てる。ちなみにこの枕は二代目だ。初代はルークが壊したので羽毛としてジンに燃えるゴミにされている。
ビリビリと不穏な音を立てて枕カバーどころか生地が裂けて中の羽毛が何枚か出てきたが気にしない。
「剣術なんて滅べばいい。」
裂けた二代目の枕を放り投げつつジンが朝から居ない原因に恨み言を吐いた。
「寒気がするから俺帰っていいか。」
「早起きしただけで風邪とかありえないですよね。鍛え直してください。」
「なにか、俺のせいですまない。」
上からクラウン、コリー、ジンである。
ジンは本気で申し訳ない気持ちになりながら隣にいる二人を見た。
確かにジンは剣術を教えてくれる人を紹介してくれないかと頼んだ。
しかしなんだかんだで忙しいと噂の指揮官本人に教えてもらおうなんて事は考えていなかった。
指揮官はまだいい。眠そうにしていても朝を指定したのは本人なのだから。
しかし副官、年末調整や、クリスマス、イベントが続く年末の疲れが一気に押し寄せているのかものすごい隈が出来ている。
なんなら死相が出ている。前に見たときより確実に2〜3キロは体重が落ちていそうである。
最初クラウンとて自分で剣術を教えようなんてこれっぽっちも考えていなかった。
しかし全くの初心者だと自己申告しているジン適当な師をあてがって妙な癖を付けられては面倒だ。
ヘタをすれば翼の生えた魔族に多大な恨みを買う可能性があるポジション。
そんなの押し付けたらクラウン本人が恨みを買う可能性がある。それでなくとも現在副官の恨みをすくすく育てているクラウンはこれ以上の恨みを買うのはゴメンであった。
ゆえに自分でするしかなかったのである。
ついでに言えば空を飛べる魔族はほとんどチートなので、できる限り手元に置いておきたいという指揮官としての思惑も含まれている。
「しかたねえから、やるか。・・・来いよ。」
クラウンはニイッと口の端を持ち上げて木刀を構えた。
基礎なんて初日でクラウンがあきたためなぜか延々うち合いが繰り広げられている。
クラウンは指揮官を名乗り現役で現場に出続けるだけあり、一撃一撃が重い。
おまけに関節が柔らかいのかなんなのかクラウンの攻撃はトリッキーなものが多い。
ちなみにジンとクラウンには身長差がある。身長の高いジンは上から振り下ろすだけで十分な攻撃力を出せる。
しかしそれも当たればの話だ。
身長差のある相手なんて現場経験の長いクラウンにしてみればよくある話。
「戻りが遅い!当てる気あんのか!?」
「くっそ」
動きが悪かったり、一瞬でも止まって入れば容赦なく腕や足に木刀が叩き込まれる。
おまけに木刀を振るいながらも引き足に重心をかけるな、勢いだけで振り下ろすな、前に出すぎなんだよ頭はかばえ等々の怒鳴られる。
いつものだらだら加減とは大違いのスパルタっぷりである。
クラウンは加減はしているのだろうが、中盤にはジンはぜえぜえと肩で息をすることになる。
基本の身体のスペックが高いためクラウンの動きを目で追うことはできるが、なれない動きに身体がついていかない。
しかしクラウンは動きながら怒鳴っている。
ついでに言えばどんなに動きが良くても立派な中年。
「今までよく頑張った。お前に教える事はもうない。」
「訓練投げないでください。」
さきに根を上げるのはたいていクラウンの方であったという。
「いやいや、同じ人間ばっかだとお前も飽きるだろう。俺とばっかりやって他のやつとできなきゃ意味ねえし、たまには他の人間とやるのもいいと思うぞ。」
言ってちらりと副官の方に視線を投げかける。
コリー副官とジンはそろって顔を見合わせた。
普段は二人だけなのに、がっつり隈を作っている副官をわざわざ呼んだのはそのためか。
彼は一度ジンに木刀を叩きおられているし、クラウンの直属の部下だ。
再戦のきかい誰よりも早く与えてやりたかったのかもしれない。
まあ、とうの副官はがっつり隈が出来ているわけだが。
なんだかんだでちゃんとしてるんだな。
しかしそんな思いは次に即刻うちけされた。
「ああ、だから街に行こうか!!」
あ、この人単に俺のことダシにして副官もろとも遊びに行く気だ。
「いや、それなら副官寝かせろよ」
副官の隈がすごいことになっている、むしろ死相が出ている。
「いいえ!そんな、日が登り始めてから居眠りなんてしないですよ!全然行けます!!」
眉をキリッとあげて答えるコリー副官は疲れから完璧に論点がずれている。
問題はコリーが眠るか眠らないかではない。
「よし、じゃあ適当に喧嘩売ってもよさげなチンピラ探しに行くか!」
「なんだその指揮官とは思えない問題発言!?」
「はい!」
しかしコリーはやる気だ。
「いやまて落ち着いてください指揮官!コリー副官もクラウン指揮官の舵取り俺に委ねないでっ」
そんな感じで街にやってきた二人。
クラウンとジンである。
さすがに副官はドクターストップがかかったため置いてきた。
案の定である。
「そう簡単にチンピラとかいねえって。」
「お前は年末の忙しい時期を舐めてるな。」
「なんのことですか。」
「考えても見ろ、年末年始のこの時期はクリスマスだ大掃除だと何かとイベントが多いだろう。」
「そうだな。」
「そんな時期遠くから来てる奴は家に帰る事もできない。しかも忙しさをすぎれば休みに入る。体力も気力も有り余ってる若い男だ。忙しさにかまけ彼女もいない男がいきなり一人寂しく休みに入ってだ。なにも起こさない訳がねえ。」
「・・・。」
まあそういうこともあるかもしれない。特にクリスマス。
っていうかそれ明らかに傭兵全体に言ってますよね。
「無言は肯定だ。」
いやしかし仲間にそんなことする奴がいるとは思うが、ここは否定しておくべきところだろう。セオリーとして。
「いくらなんでもそんなこと、ない。」
「いや、あるね。俺の方があいつらとの付き合いが長い。断言してもいい!」
「そこは信じてやって。」
あるいみ信用しているといえなくもないが。
「なら賭けるか。」
「何で。」
「今からこの通りを抜けるまでになににも遭遇しなけりゃお前の勝ち。傭兵でやらかしてる奴がいたら俺の勝ち。」
「なら俺が勝ったら・・・
「嫌っ!!離して!」
・・・・。」
遠くから聞こえる女性の悲鳴にジンは固まった。
「さあ、ひと仕事してこい!」
「まだ傭兵だって決まってない!!」
さて、悲鳴の現場へ走り抜ければそこには腕を掴まれている女性。
大変残念なことにか取り囲んでいる男4人のうち一人にジンは見覚えがあった。
酔っ払っているようでこちらには気がついていない。
追い待て今真昼間だぞ。
「いいじゃねえか、遊ぼうぜ?」
「はなして!」
「酌頼んだだけでそんな嫌がんなって。」
酔っ払っているせいか台詞のチョイスもチープである。
せめて夜出会いたかった、こんな日差しの下で直視するとなんだか切なくなってくる。
というかいい大人が、とんだ黒歴史を構築している。
「なら俺と遊ばないか。」
女性の腕を掴んでいる男の腕をぎりぎりとひねりあげるジン。
早く終わらせてやることが彼らにとって最良であるように思う。
「いってぇ」
「何しやがんだ!」
「・・・それはこっちのセリフだ、なにしてるんですか先輩?」
別に直接的な先輩ではないが入った順としては先輩なので構わないだろう。
薄く目を細めて首を傾ければそれを見ていたひとりが固まった。
どうやらジンに見覚えがあるらしい。
そのうえ後ろには指揮官が壮絶にいい笑顔で立っている。
しかもなぜか親指をグッと立てているため、男達は応援されているようにさえ感じる。
「やべ、指揮官だ。」
腕を掴まれていない男たちも指揮官の存在に気がついたのか慌てたように逃げ出した。
逃がすはずもないジンが追いかけようとするとクラウンが「使え」と木刀を投げてよこした。
男達にも武器を所持しているものもいるので構わないだろう。
ジンは今のところクラウンに勝てた事は無い。
しかし手加減しているとは言え自分と結構な時間打ち合いをしている。
のでジンが今どんなもんなのか見てみたかったのだ。
さて、どうなるか。
クラウンは手出しする気がなく腕を組んで静観している。
そしてジンは逃げる男たちに狙いを定め木刀を構える。
しかしその構えはクラウンが教えたどの構えでもない。
あれ?と思いながらも一応見ていると。
「逃げてんじゃねえええええ」
ザシューーーーーー
ジンの構えた木刀は逃げる男たちの前方に突き刺さった。やり投げの要領である。
勢いよく飛んできて地面をえぐりながら突き刺さった木刀に男たちは動きを止める。
青ざめて振り返った男に走って近づいたジンはそのままの勢いで男の胸ぐらをつかんで放り投げた。
驚いてるもう一人は顔面を手でわし掴み壁にぶつける。
残る一人は足払いをかけて転ばせる。まっさきに逃げた男である。
ジンはその男の足首を掴み持ち上げる。
尻餅をついた状態で足首を上に持ち上げられたため男は地面に背中を付けたまま仰向けに転がる姿勢だ。
ジンの両手が足を捕まえるため塞がっているその隙に、なおも逃げようとする放り投げられた男と壁にぶつけられた男。
始めの一人はクラウンがいる時点で諦めたのかおとなしくしている。
「逃げるのは構わないが。」
つかみあげた男の股間にジンは右足の踵を載せる。
「こいつが女になってもいいんだな。」
「「「「まてまてまて!!」」」」
ジン以外のここにいる男性陣の心がひとつになった。
騒ぎを聞きつけてやってきた傭兵(仕事中)に男たちを引き渡せば苦笑しながらも身柄を引き受ける。
様子を見る限りよくあることのようだ。
ともあれ無事解決したことにひと安心してジンはクラウンを振り返る。
クラウンは暗い顔をして半眼でじいいとジンを見ている。
あからさまに不満そうなクラウンにジンが近づくとなぜか目の間で立ち止まるようにゼスチャーされる。
クラウンは終始無言のまま、ぽんぽんとジンの肩を叩いた。
「お前、剣術向いてねえ。」
クラウンが渡した木刀は思いっきり地面に突き刺さっている。
「あ。」
無意識だったのだろう様子にクラウンはジンの目をみて諦めさせるためゆっくり首を横にふった。
なにもクラウンは咄嗟の判断で武器を捨てて拳を選ぶ時点で剣術向いて居ないと判断したわけではない。
初回のコリーとの立ち合いで相手の武器を叩き折った力業といい、本日の流れるような攻撃といい。
クラウンはこいつに武器もたせるのやめようと心から思った。




