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ミューゼ~運命の旋律~音楽の街の落ちこぼれ少女が、音楽に選ばれた戦士【ミューゼ】として戦うことになりました。  作者: 天近嘉人
第一楽章【アリアの運命】

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傍にいてくれるから――。

 灰色の世界は、幾千もの黒い腕に覆い尽くされた。


 ヌルの身体から生える不規則で歪な腕。


 掌には悪夢のような禍々しい黒い五線譜が溜められており、その掌は皆一様にアリアへと向けられていた。


 そんな絶望色のスポットライトを一斉に浴びながら、アリアはその場に立ち尽くす。


 怖くて足が震える。

 

 手に力が入らなくなる。

 

 意識が段々と遠のいていく感覚に陥る。




 「…………ふぅ」




 そんな中、アリアは自分を落ち着かせるために深く長い溜息を一つ吐いた。


 自身の震える手をゆっくりと動かし指揮棒を額に添える。



 そして、静かに瞼のカーテンを降ろした。



 


 

 瞳を閉じたアリアの視界は真っ暗である。


 何も見えない、ハ短調のように暗い、ひとりぼっちの孤独の世界。


 

 ――それでも、聴こえてくる音がある。



 エルハーモニアの日常が。

 

 幼い頃の思い出のメロディーが。

 

 オルガン塔から聴こえてきたあの旋律が。


 組曲のように編成されアリアの身体の中で奏でられていた。


 アリアの力になれるように。

 

 アリアを勇気づけられるように。


 

 ――アリアの傍にずっと一緒にいるよと、優しく語り掛けているように。



 「…………うん、ありがとっ」


 ゆっくりと瞳を開けたアリアは、姿は見えずとも確かに傍に居る音楽に向けてそう言った。


 

 アリアの顔には希望も絶望も浮かんでいない。


 

 ただ、大好きな音楽にお礼を言う、健気で素直な女の子の微笑みであった――。



 そして――。




 「はぁあああああああ!!!!」



 

 目の前の巨大な運命(ヌル)に向かって、アリアは走り出した。


 一歩一歩、段々強く。


 (おの)が運命を変えるために――。


 「――ギィイイイイイイイイイイイイ!!!!!!」


 覚悟を決めたアリアに向けて、ヌルが大絶叫を上げる。


 そして、幾千もの禍々しい掌から、一斉に黒い五線譜を放った。


 黒い五線譜が、螺旋階段を駆け下りるような速さでアリアを襲う。


 「やぁあああ!!!」


 そんな五線譜をアリアは指揮棒で弾く。


 黒い雨のように降り注ぐ五線譜を弾く。


 弾く。


 弾く――。


 弾く――――。


 弾く――――――。


 


 ただ、ひたすら弾く!!


 


 






 ――アリアは音楽が大好きだ。


 


 聴いているだけでワクワクする。


 聴いているだけで心が落ち着く。


 聴いているだけで涙がこぼれる。




 楽しい時、悲しい時、何時でも音楽が傍にあった――。




 ――そして、今も音楽が傍にいてくれた。



 こんな絶望的な状況下においても、ずっと一緒にいてくれている。


 背中を押してくれる。


 勇気を分けてくれる。


 音楽が一緒ならなんだって出来る!


 音楽が一緒ならどんなことでも怖くない!!


 音楽が一緒なら――。



 私は――!




 「――どんな運命だって、覆してみせる!!!!」



 全身全霊、魂からの叫びをアリアは言い放つ。


 そして、その叫びを受けて指揮棒も最大限の輝きを放ち始め……その姿を変えた。


 その姿は大きな黄金色のト音記号だ。


 中心の渦を巻いている部分が握り手となっており、そこから伸びる優雅な曲線が刃となっている。


 アリアはソレを両手で握り、ヌルへと迫る。



 

 一歩、前へ。


 一歩、前へ!


 ――一歩、前へ!!




 ――そして。




 「音符スラァァァッシュッ!!!」




 アリアはそう叫びながら、音符ソードでヌルを思い切り振り抜いた。


 

 その一撃はまさに、運命を拓く閃光一閃の一撃であった。

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