運命は、かく扉を叩く
――学園から寮への通学路。
色濃くなった西日が、生徒会長の腕章を際立たせる。
生徒会長であるヴァルが、ある一点を見つめて立ち止まっていた。
――それは、まるで四分休符のようだった。
通学路の日常風景に、ほんの僅かな亀裂が生じていたのだ。
「――会長、現況について報告に参りました」
そんなヴァルに声をかける人物が現れる。
ヴァルと同じように、腕には風紀委員の腕章を身に着けている黒髪と丸眼鏡の少女だ。
「現在確認した“狭間”、及び“旋律逆行現象”が起こった場所は三件。場所は西区コンサート会場と学園の舞踏稽古場です」
「被害状況は?」
「西区は生徒会ノゾミ副会長が、舞踏稽古場では偶然居合わせた“ミューゼ”が対応し“ヌル”を撃退。一般人並びにミューゼ達に被害はありません。残るは……」
風紀委員は徐に狭間へと視線を向ける。
「失礼ですが、会長は何をやられているのですか? 今目の前に狭間があるというのに」
「……今、狭間の中に一人の女の子がいる。私達と同様、音楽に導かれ、ミューゼに選ばれた子が」
「そんな!? では何故助けに行かないのですか!? このままでは何も知らないその子が死んでしまうだけではありませんか!?」
ヴァルの説明に顔色を変えた風紀委員が、慌てて狭間へと突入しようとする。
それをヴァルは楽器奏者のようにスラリとした腕で制止する。
「大丈夫、もしもの事があれば私が必ず助ける。今はそっと見届けたいんだ」
ヴァルはそれきり何も語らず、ただ狭間を見つめる。
風紀委員も下唇を噛み締めながら、ヴァルの意向を飲むことにした。
――アリア、これは君にとっての最初の試練だ。
――旋律の運命を背負ったのなら、音楽が大好きなら、自分の力で乗り越えるんだ。
――運命の扉を、自分の力でこじ開けるんだ。
――アリアの目の前には扉があった。
元いた世界でも、灰色の世界でもない。真っ暗な空間。
そこに、扉のみが存在していた。
この空間や元に戻っている身体に困惑するアリアであったが、扉を見てアリアは確信した。
これが、自分の運命を変える扉なのだと。
そうと分かれば、もう覚悟は出来ている。
決意を固めたアリアは、扉に向かい歩を踏み出す。
一歩。
また一歩。
更に一歩。
――そして。
扉が勢いよく開かれ、その余韻が空間に余韻を残して消えていく。
迷わず扉へ入ったアリア。
アリアがどんな表情で入ったかはもう分からない。
しかし、扉から見える彼女の背中は、運命を背負い抗う戦士の気迫で満ち溢れていたのであった。
――灰色の世界で、唯一アリアだけが輝いていた。
指揮棒を手に取った瞬間、指揮棒の光がアリアを包み込み、闇を取り払ったのだ。
その光をまとったまま、アリアは立ち上がる。
運命の試練であるヌルに対して、力強く握る指揮棒を頭の上で構える。
――そして。
「――ふんっ!!!」
アリアは力強く指揮棒を振り下ろした。
まとっていた光は小さな粒子となり、離散していく。
露わになったのは、彼女の新しい衣装だった。
黒い燕尾服にフリルが付いたショートパンツ。
首元に赤い蝶ネクタイ、手にはフォーマルな白手袋。
アリアがミューゼとして、運命の扉を開いた証だった。




