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ミューゼ~運命の旋律~音楽の街の落ちこぼれ少女が、音楽に選ばれた戦士【ミューゼ】として戦うことになりました。  作者: 天近嘉人
第一楽章【アリアの運命】

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絶望の淵で輝く指揮棒

 ――灰色の世界を、アリアは必死に逃げている。


 短く荒い呼吸音。

 

 必死に駆ける足音。

 

 忙しなく動く鼓動音。



 無音の中で、アリアの(せい)の音が嫌に響き渡っていた。


 

 そんなアリアの背後から、ノイズ音が聴こえてくる。


 

 影の集合体が人の形を模したような形状。

 

 ありえない角度で歪んだ細く不気味な体躯。

 

 顔の無い顔面、右胸にぽっかりと空いた空洞。


 


 異形が追いかけていたのだ。




 「…………」




 異形が動く。


 醜く肥大化し、引きずって歩いていた片手をアリアの方へ向け、(てのひら)から何かを放つ。



 放ったソレは、黒く歪んだ五線譜であった。



 「きゃあっ!!」


 光線のように放たれた五線譜は、アリアの頬を掠め、彼女の前に着弾。


 腹の底に響く低い音と共に、歪な音符が爆散する。


着弾した地点は、何処よりも何よりも深い漆黒に染め上げられていた。


 「ひぃっ!!」


 短く悲鳴を上げたアリアは再び灰色の世界を走る。


 息を荒らしながら。

 

 懸命に助けを求めてながら。


 しかし、この空間においてアリアを助けてくれる人物なんて存在しない。


 息遣いも、叫び声も、全てが虚しく反響する。



 ――ただ、ノイズ音だけが常に背後から聞こえ続けていた。



 「きゃああああ!!!」


 異形が再び放った五線譜が、アリアの足元で爆発。


 弾ける音符と共にアリアは吹き飛び、手から離さなかった指揮棒が転がっていく。


 「う、うぅ……」


 激しい痛みが全身を駆け巡り、その場に(うずくま)るアリア。


 それでも生きるために気力を振り絞って立ち上がろうとするのだが――。


 「うそ……?」


 アリアは立ち上がることが出来なかった。


 彼女の足は、異形と同様漆黒の闇と化していたからだ。


 「やだ……! こんなのやだよぅ……!」


 大粒の涙を浮かべながら、アリアは地面を這って逃げる。


 「音楽頑張るって決めたのに……! 運命変えるって誓ったのに……!!」


 闇は徐々に浸食を開始。


 完全に足の感覚が無くなる。


 「こんなところで死んじゃうなんて絶対いやだよぉ……!」


 闇は腰まで浸食完了。


 全身から力が抜けていき、アリアはもう動くことが出来なかった。


 「…………これが、わたしの運命なんて…………」


 ゆっくりと浸食を続ける闇。


 流れる涙の温かさも、絶望に怯える恐怖も、何も感じなくなってしまった。


 


 そんな中、最期に思い浮かんだ情景は、エルハーモニアの日常であった。


 


 美しい街並み。


 威厳のあるオルガン塔。


 待ち行く全ての人々。




 ――アリアはこの街が好きだった。




 ――そして何より、音楽が大好きだった。



 才能が無くても。


 こんな運命の結末を迎えても。



 「…………最期に音楽、聴きたかったなぁ…………」


 


 闇が首元まで迫ったところで、アリアは地面に顔を伏せた。


 残っているのは顔と、伸ばした右腕のみ。


 完全に闇と化す様子を、異形のみが見つめていた。






 

 ――運命に抗うために、その指揮棒を振るうんだ。







 突如、頭の中でこの言葉が過る。


 ハッと意識が戻ったアリアが目を開ける。


 アリアの目の前、後少し腕を伸ばせば届く距離、そこに指揮棒が転がっている。


 

 ――もし、これが自分の運命なら。


 ――もし、これが自分の結末なら。




 ――だとしても!!!




 「――うわぁあああああああああッ!!!!」




 アリアは絶叫しながら、残り僅かな力を振り絞り指揮棒へと腕を伸ばす。



 「こんな運命、絶対やだ!! まだ音楽とずっと一緒に居たいよ!!!」


 



 ――だから!!!!



 「――私は、私の運命を変える!! 変えてみせるっ!!!!」


 

 命の限りを尽くして叫び、アリアは指揮棒を掴んだ。


 


 そして、アリアに呼応するように。指揮棒は光り輝き始めたのであった。

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