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ミューゼ~運命の旋律~落ちこぼれ音楽少女は、運命を変える指揮棒と出会う。音を喰らう異形に立ち向かう《ミューゼ》となった少女は、やがて世界を救う"最後の旋律"を奏でる。  作者: 天近嘉人
第二楽章【孤高の白鳥《プリマドンナ》】

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アリアの再起と回想【レミニセンス】

 ――自分はもう嫌われたのだと思っていた。






 才能も無い、取柄も無い、ただの落ちこぼれな自分。


 そんな自分なんかに優しくしてくれた人々を、自分勝手な理由で裏切ってしまった。



 失望させてしまった。



 このまま独りになるしかないと思った。




 虚無という名の穴が、心にぽっかりと開いた――。




 ――しかし。




 ――それでも。





 「――まだ、傍にいてくれるの……?」



 アリアは掠れた声でそう呟き、泣いた。



 心の穴から感情が湧き立ったように、嗚咽交じりに泣き喚いた。



 そんな様子をヴァルはアリアの手を優しく握りながら見つめる。


 


 そして、そんなアリアを宥めるように。  



 そんなアリアに寄り添うように。



 窓から聴こえてくる音楽は、ずっとずっと流れ続けていたのであった。




 ――生徒会室には再び静寂が訪れている。


 アリアを慰めるためにやってきた音楽は段々遠のいていき、いつしか聞こえなくなっていた。


 その様子は、役目を終えた人物が満足げに帰路についているようにも感じ取れた。



 そう、音楽は役目を終えたのだ。



 もう、慰める必要が無くなったのだった。



 「…………会長」



 制服の袖で涙を拭ったアリアはそう言ってヴァルを見つめる。


 その瞳にはもう涙など浮かんでいない。


 覚悟を決めた、煌めく光を帯びていたのだ。


 「私にもう一度だけチャンスを下さい。大好きな音楽を護るために、こんな情けない自分の運命を変えるために、もう一度指揮棒を振るいたいんです……!」


 手に置かれた指揮棒のケースを両手で強く包み、アリアは言った。


 そんなアリアの眼差しを受け止めたヴァルは、アリアの真剣な顔を見つめ続ける。


 そして、余韻に浸るようにゆっくりと頷いた後で――。



 「――うん、これからもミューゼとしてよろしくね、アリア」


 「っ! は、はいっ! よろしくお願いしますっ! 私、これからもっともっと一生懸命頑張って――」


 「――ただ」


 無事に了承を得て張り切るアリアの言葉を遮り、ヴァルは両手でアリアの手を包み込む。


 その表情は先程の優しい笑みから生徒会長たる真面目な顔つきへと切り替わっていた。


 「一つだけ約束して欲しいんだ。これから先辛いことがもしあったのなら、決して一人で抱え込まないで欲しい」


 ヴァルの両手に無意識のうちに力が加わる。


 その強さと熱が真剣さをより強調しているようにも感じた。


 「アリアは独りぼっちじゃないからね。私やノゾミ、他にもまだ紹介していないミューゼの仲間たちが沢山いるんだ。音楽だって必ず君の味方になってくれる……。それに――」


 ヴァルはふとアリアから視線を外し、窓から見える学園の景色、更にはその奥にうっすらと見えるオルガン塔を見つめる。



 そして――。



 「…………あの子も、アリアのことを見守ってくれてるしね」



 遠くの景色に囁くように、ヴァルがこっそりとそう言った。




 それは、何かを懐かしむような眼差しで。


 それでいて、何処か悲しみを含んでいる眼差しで。



 悲しいようで嬉しい。


 嬉しいようで悲しい。



 この表情をどうやって表現すれば良いのか、どんな曲名(タイトル)を付ければ良いのだろうか。



 茫然とヴァルの横顔を眺めるアリアには、まだ分からないことだった――。





 「――ぬっはっはっは!!! お主達ッ! 生徒会副会長ノゾみんことノゾミが今帰ってきたぞッ!!!」




 そんな空気を破壊するかの如く、凄まじい勢いで扉が開かれる。



 樽のような牛乳容器を脇に抱えたノゾミが、声高々に帰って来たのだ。



 「……あっ! ノゾミさん! お帰りなさい!」


 その声に反応したアリアがいつも通りの可愛らしい笑顔で返す。


 「うむ、良い返事じゃ! アリアよ、その様子じゃと見つけられたようじゃのう。お主が歩むべき正しい道というのを」


 「はい! 見つけられました! それもこれもノゾミさんとヴァル会長のお陰です! 本当にありがとうございます!」


 言葉の勢いのまま椅子から飛び起き、アリアは頼れる生徒会の二人に深々と頭を下げる。


 「うむうむ! やはり年頃の女子(おなご)はこれくらい元気じゃなきゃのう……! よぅし! 宴じゃ! アリアが元気になったお祝いとしてクッキーと牛乳の大宴会を開くのじゃああ!!!!」


 「え!? 宴会ですか……? 私、クッキーも牛乳も大好きですけど、流石にこの量は飲めないというか……」


 「アリアよ!! だからお主はちんちくりんなのじゃ!! 儂みたいな大人なセクシーボディになりたければこれくらいの量飲み干せ!! クッキーも皿ごと喰らえッ!! 貪り尽くすんじゃああああ!!!!」


 「ふ、ふぇえ……! ノゾミさんがまた変なテンションになっちゃったよぅ……!」


 舞台上で感情が高ぶり過ぎた指揮者のように両手を大きく動かしながら熱弁するノゾミ。


 ノゾミに狼狽えてしまい、両手を口元にやってあわあわとたじろぐアリア。


 そんな二人を静観していたヴァルは、二人に聞こえないほどピアニッシモ(ちいさ)な息を一つ零した。


 

 そして――。




 「――そうだね。ノゾミの言う通りお茶会を再開しよう……。それに、アリアにはまだ話したいことがあるんだ」

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