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ミューゼ~運命の旋律~落ちこぼれ音楽少女は、運命を変える指揮棒と出会う。音を喰らう異形に立ち向かう《ミューゼ》となった少女は、やがて世界を救う"最後の旋律"を奏でる。  作者: 天近嘉人
第二楽章【孤高の白鳥《プリマドンナ》】

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牛乳とクッキーの二重奏《デュエット》と救済

 音符型のクッキーが、サクサクと音を奏でる。


 薄く焼かれた口当たりの良い食感。


 香るバターと程よい砂糖。


 そして、作ってから時間が経ってしまっても仄かに温もりが残っていたのであった。



 「うむ! やはりヴァルが作るクッキーは絶品じゃ!! アリアよ、お主もそう思うじゃろう?」


 「はい! サクサクしてて甘さも丁度良くて……。とっても美味しいです!」


 両手で持てるだけクッキーを持ち、豪快に食べるノゾミ。


 そんなノゾミとは対照的に、アリアは小さな手で大切そうに一枚のクッキーを持ってチマチマと食べていた。


 「そうであろう、そうであろう……! 時にアリアよ。このクッキーを更なる高みへと昇華する食べ方があるのじゃが、試してみたくはないか?」


 「更なる高み……ですか?」


 「うむ! その食べ方とは……こうじゃっ!!」


 そう言ってノゾミは牛乳が注がれたグラスへと勢いよくクッキーを浸し始める。


 飛び散る白い雫達。


 あまりに突飛な行動に小さな口をポカンと開けるアリア。


 そんなアリアへ向けて、ノゾミはどうだと言わんばかりに一つ鼻を鳴らした。


 「ぬっふっふ……! 儂の天才的な策に言葉も出んようじゃのう……! こうすることで牛乳がよりバターの甘みを引き出してくれるのじゃよ!!」


 「の、ノゾミさん……?」


 「さらに!! 牛乳に浸した部分はしっとり食感に! 他の部分はサクサクのままじゃ!! しっとりサクサク! しっとりサクサク!! 二つの食感が更なる味の境地へと達する!! 言わば至高の二重奏(デュエット)なんじゃああ!!」


 「ノゾミさん! 落ち着いてぇ……!」


 「アリアもさっさとやらんか!? ディップじゃ、ディップ!! ディップ、ディップ、ディぃぃぃップぅうううう!!! そして、厳しいディップを乗り越えた末、お主が究極のクッキーになるんじゃあああ!!!」


 「ふぇええ!? 私クッキーになっちゃうんですかぁ!?」


 ノゾミがクッキーと牛乳を持ちながらジリジリとアリアへ詰め寄り、アリアはプルプルと怯えながら震えている。


 厳格であるべき生徒会室とは到底思えない光景である。


 そんな光景をヴァルは静かに眺めていた。


 目の前で繰り広げられる喜劇を上品にティーカップを持ちながら、微笑みながら眺めていたのであった。



 そして――。



 「――アリア、ちょっといいかな?」


 ヴァルは紅茶を一口飲み、静かにカップをソーサーへ戻す。


 陶器が鳴らした一つの音が、喜劇の終幕を告げてアリアとノゾミの視線がヴァルへと集まった。


 「実はね、今日はアリアにお願い事があって呼び出したんだよ」


 「お願い事……ですか?」


 「うん、アリアにしか頼めないとても大切なお願い事なんだ。聞いてくれるかな?」


 改めて威厳な態度を取りながら、ヴァルがそう言った。


 その態度に先程の雰囲気は消え去り、徐々に張り詰めた緊張感が漂い始めていく。


 

 正直アリアにはそのお願い事の検討が全くない。


 何故なら自分は何一つ才能の無い人間で、面倒事を押し付けられることはあっても誰かにお願いされることなんか無かったからだ。


 しかし、そんなアリアだったが返す言葉は既に決まっていた。



 「はい! 私に出来る事なら喜んでやります!」


 「…………本当にいいの? お願いする立場から言うのはなんだけれど、アリアには少し酷かもしれないよ?」


 「大丈夫です! 私、ノゾミさんや会長のお陰で立ち直ることが出来ました。だから今度は私が会長の力になりたいんです……!」


 アリアは臆することなく、真直ぐにハッキリとこう伝えた。


 

 自分を肯定してくれた、また大好きな音楽と一緒にしてくれた。


 そんなヴァルに恩返しがしたい、何の不純物も混ざっていない純粋な気持ちから出た答えたのであった。


 アリアの真直ぐな姿勢に、先程まで暴走していたノゾミも満足げな笑みを浮かべながらヴァルの言葉を待つ。


 アリアも目を逸らさずにただ待っていた。


 どんな無理難題を言われようが、しっかりと受け止めるとする決意がその眼差しに込められている。


 ヴァルはアリアの様子に納得したように一度小さく頷く。


 しかし、直ぐには顔を上げなかった。



 アールグレイの紅茶に映る自分の顔が、まるで脇腹を刃物で刺されたかのように苦悶の表情を浮かべていたからである。



 「…………アリアにお願いしたいこと。それはね――」



 そう言ってヴァルは躊躇いながらも真面目な表情を作って、アリアへと顔を上げる。


 微かに震える唇を一度閉じて。


 厳格で、真面目な生徒会長になりきった後で。



 そして――。







 「――レイラを救って欲しいんだ」

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