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ミューゼ~運命の旋律~落ちこぼれ音楽少女は、運命を変える指揮棒と出会う。音を喰らう異形に立ち向かう《ミューゼ》となった少女は、やがて世界を救う"最後の旋律"を奏でる。  作者: 天近嘉人
第二楽章【孤高の白鳥《プリマドンナ》】

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亜麻色のアヒル

 昼休み。


 アリアは中庭に設置されたテラス席で譜面が描かれたノートを広げていた。


楽典の予習復習、それから今月の課題である『動物をテーマにした十六小節のピアノ作曲』、エルハーモニア学園の生徒として頑張らなくてはならないことが山ほどあるのだ。


 

 「むむぅ……」


 唇を尖らせながら、ノートと睨めっこする。


あの日の宣言通り、一生懸命音楽を頑張るアリア。



 

 しかし――。



 「――はぁ、駄目だぁ………!」


大きなため息を吐いて、アリアはテーブルにぐでぇっと寝そべる。


 アリアの下敷きにされたノートには何度も書き直された音符の跡が残っていた。


 

「………凄かったなぁ、レイラちゃん」



そうポツリと呟き、アリアは机の上で鉛筆をコロコロと転がす。


体育の授業が終わった後も、レイラのバレエが頭から離れることは無かった。


五線譜ノートに音符を綴ろうにも、鉛筆の音がステップの足音に聴こえる。


頭の中で浮かんだ会心のメロディーも、レイラの跳躍に掻き消されてしまう。


それほどまでにレイラのバレエは、白鳥の舞踏は凄かった。


そして思い知らされてしまったのだ。



レイラこそが、音楽に選ばれた人間なのだと。



「……私の運命、変えられたと思ったのに………」


身体を起こしたアリアはお気に入りのリュックを漁り、指揮棒を取り出し見つめる。


ミューゼの説明を聞いた時、アリアは嬉しかった。


これから街を護るためにヌルと戦い続けるのは正直怖い。


しかし、今まで褒められてこなかった自分が、この学園の生徒会長であるヴァルに祝福されたことがまず嬉しかった。


そして、それ以上に音楽が自分を選んでくれたことが何より嬉しかった。


駄目駄目だった自分が、ようやく報われた気がした。


だからこそ、今日のレイラのバレエは酷く心に刺さった。



レイラの圧倒的な才能によって、アリアが抱いていた淡い希望は打ち壊されてしまったのだ。



「やっぱり変われないのかな、私」


指揮棒に向かってアリアはそう弱音を吐く。


指揮棒は何も応えてくれないが、アリアの言葉を親身に聞き、真剣な眼差しでこちらを見ているような、そんな気がした。



――そんな時だった。



「――あれ?」



 放課後の校舎から、音楽が聴こえてきた。



 誰かが練習しているのか、友達同士の遊びで演奏しているのかは分からない。



 のどかな昼下がりに似合うゆったりとした、聴いていて心が安心出来る旋律。



  その旋律は、まるで大人の優しい手のようで、悲しみにくれるアリアの“亜麻色(あまいろ)”の頭をそっと撫でてくれている。



 そして、そのまま手を引かれるように。


アリアの身体は、自然と立ち上がっていた。



 一歩。

 

 また一歩。


 

 アリアはゆっくりと足を踏み出しリズムを作る。



 「……えへっ」


 楽しくなってきたアリアは更に動きを足して踊ってみる。


 

 

 指揮棒を振るうように腕を大きく動かしてみる。



 大きなステップを入れたり、時折ちょこちょことその場で足踏みしてみる。



 両手を大きく広げて、三つ編みおさげを揺らしながら、ゆっくり回ってみる。



 「あははっ!」


 

 ピアノの音色に身を任せながら、アリアは踊る。



 レイラのように華麗に踊れない。


 白鳥のように美しくはない。



 しかし、アリアは楽しかった。



 まるで、親鳥の後をついていきながら、楽しそうに鳴き声を出して水面に浮かぶアヒルの雛のように。



 大好きな音楽と一緒に踊ることが、ただ楽しかった――。





 ――ゾクリ。






 

 アリアの踊りが唐突に止まった。



 校舎の方から誰かの視線を感じたのだ。


 その視線はまるで首元にナイフを突き立てられたかのような。


 鋭く、とても冷たい視線だった。



 「誰……?」


 そんな視線に恐怖を覚えながらも、アリアは校舎へと顔を向ける。


 しかし、そこには誰も居なかった。


 ただ教室のカーテンが何かが飛び立った後のように、ゆらゆらと揺れているだけであった。



 「…………気のせいだったのかな?」


 確かに感じた凍てつく視線に、アリアは首元を手で押さえながら小首を傾げる。


 この視線の鋭さ、そして冷たさ、何処かで誰かに向けられた覚えがあった。


 しかし、どうにも思い出すことが出来なかったアリアは再び音楽と踊る為に校舎から背を向ける。






 その時だった――。




 




 「――え?」




 校舎から聴こえてくる旋律が変わった。




 


 旋律が、逆さに鳴っていく。


 


 

 階段を下りるように、徐々に音階が下がっていく。



 壊れたオルゴールのように、薄気味悪い間延びしたリズムになっていく。



 アリアの頭を優しく撫でてくれた手が。



 アリアを踊りへエスコートしてくれた手が。



 

 黒く歪な、異形の手へと変貌していく――。




 「――っ!!」



 この異常事態にアリアはテラス席へと急ぐ。



 ミューゼへと変身するための指揮棒は、テーブルの上に置いてあったからだ。


 



  ――しかし。





 「あっ――」





 後少しで手が届きそうな距離。


 

 アリアの手は空を……ではなく虚無を切った。




 アリアとテーブルとの間に、ヌルの世界への入口、“狭間”が出現したのである。



 

 そして、現実の世界からアリアの姿は消えてしまった。



 黒い異形、ヌルの世界へと落ちてしまったのであった。

この回で流れた音楽はドビュッシー「亜麻色の髪の乙女」でした!


僕はYouTubeでピアノ演奏で聴いてこの曲をチョイスしたのですが、オーケストラ版で改めて聴いたところ、一番初めのフルートが朝の小鳥のさえずりを表現していそうで、恐らく朝の風景の一コマ的な曲だったんだなと後で後悔しました笑


ただ、素敵な曲であることに変わりはないですし、演奏形式や楽器で印象が変わるってのも音楽って素敵だなと改めて実感することが出来ました!


皆さんも是非、聴いてみて下さい!!



さて、指揮棒無しで狭間に落とされてしまったアリアはどうなってしまうのか。アリアが感じ取った冷たい視線の正体とは一体誰なのか。


次回も日曜日更新です! この物語が皆様のささやかな楽しみになりますように!!

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