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ミューゼ~運命の旋律~音楽の街の落ちこぼれ少女が、音楽に選ばれた戦士【ミューゼ】として戦うことになりました。  作者: 天近嘉人
第二楽章【孤高の白鳥《プリマドンナ》】

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舞う白鳥、傍観するアヒル

 ――優美な湖の湖畔に、一羽の白鳥が舞い降りた。



 静かな姿勢(プレパラシオン)を保ち、演奏を待つレイラ。


 

 ただ黙って立っているだけ。


 それなのにアリアを含めクラスメイト達全員が息を潜め、レイラから目を離せずにいた。


 レイラという少女は、立ち姿だけで稽古場の空気を支配してしまった。



 彼女の佇まいはそれほどまでに美しかったのだ。


 


 ――そして、先生のピアノと共にレイラの身体が動き始める。



 

 旋律の中を優雅に遊泳するような、滑らかな足運び(パ・ド・ブレ)



 翼をそよ風に靡かせるように、ゆっくりと広げた腕(ポール・ド・ブラ)



 レイラの圧倒的に美しい一挙手一投足、その姿にクラスメイト達は息をすることすら忘れていた。

 

 


 勿論アリアもその内の一人だった。


 体育座りのまま、完全に見惚れてしまっているアリア。


 演奏が進むにつれて心臓が高鳴る。


 舞踏を見ているだけで、感情が湧き立つ。


 

 これが、“本物の音楽”なのだと、徹底的に思い知らされてしまう。


 

 「凄い……」


 アリアの口からは自然とそんな言葉が漏れた。


 

 そして、アリアの言葉が合図だったかのように、レイラの動きが変わる。


 

 今までより細かくなったステップ。


 軽やかに連続した跳躍(パ・ド・シャ)



 白鳥が大きな翼を広げて。


 空へ羽ばたく助走のように。





 そして――。





 ――白鳥は空へと舞った。



 完璧な高さ。


  完璧な体勢。



 宙で弧を描く、大きな跳躍(グラン・ジュテ)



 その瞬間、誰もが息をする事さえ忘れている。


 一瞬、時が止まったような感覚に陥る。



 

 白鳥の舞は、ただひたすら美しかった。





 ――白鳥が再び水面に舞い降りる。



 演奏が終わったと同時に、レイラは着地。


 

 そして腕と足を高く上げる姿勢(アラベスク)終止符(ピリオド)となり、レイラのバレエは幕を閉じる。



 まだ、誰も声を出せない。


 

 圧倒的に美しい孤高の白鳥の姿を、ただ茫然と眺めることしか出来なかったのだ。


 

 そんな中――。


 

 「――お疲れさん! 最高の演技だったぜ!」


 先生がレイラの肩をポンと叩きそう言った。


 そして、未だ固まってる生徒達を見渡してから。


 「お前ら、最高のお手本を見せてくれたレイラに大きな拍手っ!!」


 最大限の賛辞を込めて、先生がレイラに拍手を送る。


 それに連なって一つ、また一つ拍手の音が増えていった。


 そして。


 「凄かったよレイラちゃん!!」


 「私、授業で初めて泣きそうになっちゃった……!」


 「よっ! 流石名家のお嬢様っ! 学園一の天才音楽娘っ!!」


 レイラへ向けられてた歓声と惜しみない拍手が、稽古場に響き渡る。


 レイラは何も言わず、行儀良く手を前で組んで長く滴るまつ毛を伏せていた。


 歓声も、喝采も、何もかも当たり前だと言わんばかりの表情でソレらを聴いていたのであった――。



 「――アリア、レイラのバレエはどうだった?」


 生徒達の反応に満足した先生は、未だ体育座りで呆けているアリアに言った。


 アリアはまだ余韻から抜けられず、皆の歓喜の声を浴びるレイラの背中を羨望の眼差しで見つめていた。


 「…………凄かったです、あれが“身体を使った音楽”なんだなぁって。それに比べて私の踊りなんて全然駄目で……」


 話していく内にアリアの声のトーンが下がっていき、しょんぼりと俯いてしまうアリア。



 音楽が選んでくれた。

 

 ミューゼになれた。

 

 ヌルと戦って、自分の運命を変えることが出来た。



 しかし、今の演技を見てソレらで得た自信は完全に消え去ってしまった。


 

 天才が魅せた“本物の音楽”は、それほどまでに強烈だったのだ。


 

 「っへ、バーカ、何言ってんだよ」


 そう言って先生はアリアの震える手を優しく握り、立たせる。


 「いいか? 確かにお前のバレエは全然駄目だ。けどな? お前らしくて良い踊りだって言ったろ?」


 「はい、確かに言ってましたけど……?」


 「お前は白鳥じゃなくて“アヒル”なんだよ。お前らしく一生懸命に楽しく踊る……。それも立派な音楽だし、いつかきっと誰かの心を動かせるようになる!」


 「…………アヒル?」


 「そうだ! 小っちゃくてお前らしくてピッタリじゃねぇか! もっと基礎を磨いて、一丁前に踊れるようになって、アヒルになれ、アリア!!」



 アリアの背中をポンと叩き、豪快に笑う先生。


 「…………アヒル」


 アリアは頭の中でアヒルの着ぐるみを着た自分を想像しながら、何処か神妙そうな表情をしていた。



 そんな中で――。




 「――くだらない」




 凍てつく氷柱のような言葉が、何処からかアリアへ投げかけられた。


 我に返り振り返るアリア。


 声が聞こえた気がする方向を向くと、レイラが自分の列へ戻る姿があった。



 今なお止まない大歓声の中、ほんの僅かに顔を歪ませた白鳥の姿をアヒルは目撃したのであった。

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